2014 年 55 巻 11 号 p. 653-660
症例は26歳,女性のモンゴル人.既往歴としてB型慢性肝炎を認める.今回,健診にて肝機能障害を指摘され,B型慢性肝炎急性増悪の診断で当科紹介となる.来院時採血で更に肝障害増悪を認めたが,HBV-DNA量は2.8 log copy/mLと低値だった.また他のウイルス感染やAIH,PBCも否定的だった.妊娠中と判明したため無治療で経過観察したところ,肝障害は徐々に自然軽快し,妊娠39週で出産した.出産後もHBV-DNA量上昇は認めず,肝障害は更に改善したが,出産から9カ月後に再度肝障害増悪を認めた.この段階でD型肝炎ウイルス(HDV)の重複感染を考え,保存血清を用いてHDV-RNAを検査したところ陽性と判明し,HBVキャリアに対するHDV重複感染と診断した.Peg-IFNα-2aの投与を開始したところ,肝障害は改善し,治療中のHDV-RNAも陰性化した.日本においてHDV感染は稀な疾患であるが,HBV-DNA量の増加を伴わないB型慢性肝炎急性増悪症例に遭遇した場合には,HDV重複感染を念頭に置くべきと思われた.