2017 年 58 巻 12 号 p. 647-653
症例は72歳男性.C型肝炎を背景に発症した門脈本幹腫瘍塞栓を伴う多発性肝細胞癌(HCC)に対して,大腿動脈アプローチでリザーバーシステムを留置した後に同日より肝動注療法(low dose FP療法)を開始し,一旦退院となった.しかし,治療開始後16日目の外来受診時に血小板数が0.3×104/μLと著明な減少を認めたために緊急入院となった.赤血球数,白血球数は正常であり,骨髄穿刺所見もほぼ正常であった.播種性血管内凝固症候群,特発性血小板減少性紫斑病などとの鑑別が問題となったが,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)抗体が陽性であったために,HITを強く疑った.ヘパリンの投与中止およびアルガトロバン20 mg/日の投与を開始したが,血小板数の回復がほとんど見られず,ヘパリン化親水性カテーテルも抜去した.その後緩やかに血小板数の上昇を認めたが,HCCの病勢進行を認め,動注療法開始後39日目に永眠された.