肝臓に原発した純粋の扁平上皮癌の報告は極めて稀で内外の文献を集めても30例に満たない. これらの中, 硬変肝に発生したのは本例が4例目である. 症例は52歳, 男性でB型+アルコール性肝硬変で, 臨床的には肝腫瘍も疑われたが確診がつかないまま食道静脈瘤の破綻出血により死亡し, 剖検された. 剖検により硬変肝のS8領域に7×5×4cmの腫瘍があり, 組織学的に扁平上皮癌であり, 多数切片での検索でも腺癌の像はなかった. 横隔膜に直接浸潤している以外には他臓器に腫瘍は見られず, 肝原発の扁平上皮癌と診断した. 本例で着目した点は腫瘍, 非腫瘍の境界部で肝硬変の偽胆管部の細胞と腫瘍細胞が置換するように交錯していた. 免疫染色により, 胆管, 肝細胞に好染するサイトケラチンが偽胆管細胞にはもちろん腫瘍細胞にも陽性を示した. これらの所見より, この癌の発生は肝の細胞の幹細胞様のものから生じたのではなかろうかと推察された.