ヒトの表情筋の記載は、16世紀中期のガレノスに始まる。詳細な表情筋の解剖図はアンドレヴェザリウスに始まり、その後は他の解剖学者によって、それぞれ特色のある図として記載されている。
今回、解剖図の歴史的変化と表情筋という名称の移り変わりをガレノス、レオナルドダヴィンチより19世紀後半に至るまで調査した。その結果、ヴェザリウスの後、サントリーニによって表情筋の詳細な記述と解剖図が記載されたことがわかった。サントリーニが記述したより以前は、頭部の筋として表情筋と咀嚼筋は同一の頭部の筋と考えられていた。サントリーニによってはじめて表情筋と咀嚼筋が明確に区別された。さらに笑筋についてもその詳細が記述された。しかし、それでも19世紀前半では、表情筋と咀嚼筋の区別をしていない解剖書が多くみられた。
我が国での表情筋と咀嚼筋の最初の説明記載は、クルムスの解剖書を原本とした『解体新書』であった。明治期になると、ドイツ医学が採用されたことでドイツ語の解剖書を用いた説明と解剖図が多数を占めていた。