抄録
Phytophthora capsiciの遊走子は,カブ, ナス, トウガラシ, トマト, ゴマ, シュンギク, ネギ, キュウリ, イネ, カラスムギ, ヤエナリ (豆もやし), タバコなど感受性・非感受性を含む多くの植物の実生あるいは発芽種子の根部に対して, いずれも顕著な集泳を示した.したがって, 本菌遊走子の植物根に対する走性は, 寄主特異性とは, ほとんど無関係のように思われる.
これらの植物の麿砕汁液を, そのまま, あるいは, 1%の寒天ゲルとしてガラス細管に充てんし, 遊走子けんだく液中に挿入すると, 遊走子の走性を誘起し, 細管々口部にはげしい集泳・集積が起こった. この走性誘起の活性が, 120℃の熱処理によっても失なわれず, かつ, セルローズ膜透析により透析外液に移行したことは, 植物汁液中に耐熱性の高い, 低分子性の走性誘起物質の存在を推測させるが, 他方, 植物実生の浸出液と, その濃縮液にも走化性を示す活性が認められず, また, 汁液を含む寒天片, あるいは濾紙片を遊走子けんだく液中に投入した場合にも, 遊走子の集泳がほとんど認められないことなどの否定的結果も得られた.
なお, 植物汁液をガラス細管に充てんして, 遊走子けんだく液中に挿入した際, 管口部において対流現象 (汁液の流出とそれに伴う外液の流入) の起こることを, 暗視野照明下における詳細な観察から明らかにしたが, 少なくとも, この場合に起こる遊走子の集泳の様相は, この対流現象と, 先に報告した遊走子の走流性を考え合わせることにより, ある程度まで説明できるようである.