抄録
出火した箇所には電気溶融痕が存在することが多いので,電気溶融痕は火災原因調査の際,発火(出火)原因を解明する大きな手がかりになる可能性がある。電気溶融痕の判別方法を確立するのに必要な基礎研究として,(1)溶融痕に近接する非溶融部分(芯線)の結晶粒度に熱履歴などによる特徴が現れるか否かを調べるため,電線の素線を各種の加熱・冷却条件下でサンプルを作製して結晶粒度に差があるかどうかを研究,(2)また,様々な条件下で1次・2次溶融痕を作製し,外観,気孔,断面組織等がどのような特徴を示すのかについても研究をした。その結果,以下のことが得られた。
1)銅線の結晶粒度は,最高到達温度のみに依存し,被熱履歴(温度維持時間,冷却速度,加熱等)は残さない。
2)外観(光沢・色調・形状・平滑度・大きさ)には,1次・2次溶融痕に明らかな特徴及び傾向は認められない。また,気孔は,傾向として2次溶融痕の方に多く発生しているが,明らかな傾向はない。
3)溶融痕発生前に芯線が大気に触れ,加熱状態または火炎にさらされた状態で芯線表面の酸化が進行した場合,その溶融痕には生成前の酸化程度を反映した組織が観察される。また,酸化組織は短絡前の表面酸化により生じることばかりではなく,短絡して凝固する段階で雰囲気の酸素を吸収してもできる。
4)酸素濃度2. 5%の雰囲気でも酸化組織が認められたことから,火災時の酸欠状態においても,溶融・凝固中に空気接触があった場合には酸化組織が現れる。
(オンラインのみ掲載)