【目的】正常細胞のDNAが環境中の様々な要因により損傷を受け、突然変異を起こすことが、発がんの原因のひとつと考えられている。特にDNA中のグアニンが酸化されて生じる8-ヒドロキシグアニンは、活性酸素を発生する様々な変異原物質によって生成されることが知られており、酸化的DNA損傷のマーカーとして注目されている。一方、日本人の乳がん罹患率が欧米人より低いことは、大豆食品の摂取と関係していると推察されている。本研究では、大豆イソフラボンが各種変異原物質によって誘発される突然変異を抑制する効果を、エームス変異原性試験を応用して検索し、大豆によるがん予防の手掛りを得ることを目的とした。【方法】試験菌株にはヌクレオチド除去修復能、および8-ヒドロキシグアニン修復能を欠損させたSalmonella typhimuriumを用いた。それぞれの菌株に変異原物質、およびイソフラボンを加えて培養した後、各菌株遺伝子の突然変異体数を数え、実験条件による突然変異誘発能の差異を比較検討した。【結果】主に、Benzo(a)pyreneは、グアニン:シトシン対を標的として、Hydrogen peroxideはアデニン:チミン対を標的として酸化的DNA障害を生じ、塩基置換型突然変異を誘発した。これらの変異をイソフラボンが抑制する効果を検討した結果、特にゲニステインによる抑制効果が強く、またアグリコンの方が配糖体よりその効果が強い傾向がみられた。これより、大豆イソフラボンによってがん発症の要因となる突然変異が抑制される可能性が示唆された。