研究の目的2006年,国連は障害者権利条約を採択した.本条約は,「障害者が自立して生活し,及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすること」を目的の一つとしている.生活の自立を育む「家庭生活」と「障害者」の研究は,家政学においては,障害者の親に焦点をあてた研究がみられるが,障害者当事者を扱ったものはない.本研究は,女性聴覚障害者に限定して,当事者視点から生活経営を考察する.その理由は,報告者のひとりである吉田が当事者であるからである.本研究の目的は,第一に,当事者視点からみた生活経営の諸問題を衣食住生活の実践の文脈から明らかにし,聴覚障害者の主体的生活経営を妨げているものを考察することである. 第二に,報告者らが本学会第59回大会で課題とした「家政学のユニバーサルデザイン教育の展開」を上記の考察に立って,シラバス作成を具体的に試みることである.
研究方法女性聴覚障害者当事者を中心とした自助グループのメーリングリストを活用したアンケート調査,インタビュー調査等を用いて生活経営学視点からの考察を行う.
結果第一に,衣・食生活の実践においては,障害をもたない他の一般の人々と同様に生活知識獲得が可能であるが,住生活の実践においては,インターフォンの音が聞こえない等の困難さがあることが明らかにされた.聴覚障害者の主体的生活経営を妨げているものとしては,コミュニケーションが必要とされる介護や育児活動があげられた.第二に,上記の考察に立ったユニバーサルデザイン教育を実践するためには,生活経営に「障害者理解」及び「ICT支援」をシラバスに取り入れる必要性が明らかにされた.なお,作成したシラバスについての詳細は当日提示する.