目的 19世紀後半のイギリスはレジャーの時代ともいわれる。科学技術の進歩により、鉄道網が発達し、旅行を楽しむ女性たちが登場した。本研究では、旅行をするための装いをとおして、当時の女性の生き方や美意識を明らかにする。
方法 19世紀後半に出版された書物、雑誌、ポスターを1次資料として用い、当時の旅行服について検討する。中心とする資料は、ガールズ・オウン・ペーパーで、幅広い読者層を持つ女性雑誌の立場から、当時の女性の装いの全体像を把握することが可能である点から、この資料を重点資料として選んだ。
結果 1点目として、ガールズ・オウン・ペーパーにおいて、旅行をするための装いが、記事として多数取り上げられていた。レジャーの楽しみとしては、家庭内で気軽に楽しめるテニスの方が人気であったが、雑誌をとおして、旅行への憧れがかきたてられた。2点目として、他雑誌でも旅行服の紹介記事が取り上げられており、旅行が一部の富裕者層の楽しみだけではなくなっていることがわかった。そして、その装いのキーワードとして「シンプル」という表現が再三にわたって使用されていることが特徴としてあげられる。3点目として、女性旅行家が登場し、勇敢な女性を取り上げる雑誌が複数認められた。また、その女性の装いはヴィクトリア朝レディのドレスコードを守った「長い丈のスカート」であり、旅行服のシンプルさは、ステイタスシンボルでもあったといえる。