九州歯科学会雑誌
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ネパール王国テチョー村における歯科保健活動 : 生活用水の水質調査
河岸 重則中村 修一小川 孝雄安部 一紀和田 耕太郎深井 穫博
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1998 年 52 巻 6 号 p. 671-678

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抄録

我々は1989年からネパール王国テチョー村を中心に, 歯科保健医療に関する学術調査と国際協力を継続している.最近の活動は疾病対策からPrimary Health Care方向へ重点を移してきている.そういった観点から, 本研究では村人の健康と直結する生活用水の水質調査を実施した.テチョー村は, 首都カトマンズ近郊の農村で, 人口は約11, 000である.村では朝と夕1時間ずつ共同水道施設で給水があるが, その水だけでは不足がちであり, 溜め池の水やと湧き水も体や食器の洗浄や衣類の洗濯に利用されており, 衛生上の問題があると思われる.そこで本調査では, 水道の水源, 水道施設, 溜め池, 湧き水, 家庭内の貯水容器などから採取した24の検水について, 一般細菌, 大腸菌群, カドミウム, 水銀, 鉛, 砒素, 六価クロム, シアン, 硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素, カルシウム硬度, pHの項目の検査を実施した.検査項目は我が国では水道法に基づいた遵守義務のある「基準項目」から「健康に関する項目」として基準値が定められているものを主に選んだ.水道水は次亜塩素酸処理により十分滅菌されていたが, 水源, 溜め池, 湧き水にはいずれにも大腸菌が検出された.また, 全ての検水で砒素が検出され, 特に湧き水と溜め池の水ではかなり高い値を示した.カルシウム硬度は基準値よりは低かったが, 硬水に属するものであった.他の項目については基準以下か, 検出されなかった.これに加えて, カトマンズより車で約4時間の山奥のアネコット村の飲料水も5検体検査した.山奥ゆえ比較的安全と考えられていたが, やはり, 大腸菌群と砒素が検出された.今後の検討課題としては1)水道水の残留塩素の測定, 2)砒素の精密測定, 3)比較的高いカルシウム硬度と腎臓結石や胆石などとの関連, 4)本調査時は乾季であったが, 雨季ではどうかということ等が挙げられる.

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© 1998 九州歯科学会
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