九州歯科学会雑誌
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原著
Thymosinβ4が抜歯窩治癒過程に与える効果
坂本 和美松尾 拡林 知孝吉田 充広張 皿福山 宏仲西 修
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2007 年 61 巻 2.3 号 p. 67-76

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抄録

thymosinβ4(TB4)は43個のアミノ酸からなるペプチドで,球状アクチン(Gアクチン)と結合し,アクチンフィラメントへと重合するのを妨げる主要な“Gアクチン隔離ペプチド”と見なされている.最近の研究により,TB4は細胞遊走,血管新生,創傷治癒,炎症,形態形成および腫瘍の転移などに関わる多機能のペプチドであることが判明してきた.しかしながら我々が歯胚発生におけるTB4の重要な役割を示した以前の報告以外は,歯学研究に関連した報告はほとんどない.本研究では,TB4の9個のアミノ酸からなるG-アクチン結合モチーフや血管新生能に必須の7個のアミノ酸領域を含む20個のアミノ酸からなる合成ペプチドを用いて,TB4の抜歯後創傷治癒における効果を検索した.ラットの下顎第一臼歯を抜歯後,合成ペプチドを抜歯時とその後毎日4日間,腹腔内投与した.その処置の対照として同量のリン酸緩衝生理食塩水を同じように投与した.2日,3日,4日例の脱灰した下顎から組織切片を作成した.また必要に応じて組織化学染色や免疫組織化学染色を施した.抜歯窩の肉芽組織よりtotal RNAsを抽出し,matrix metalloproteinase-2(MMP-2)や vascular endothelial growth factor(VEGF)遺伝子に対する半定量的RT-PCRを行った.MMP-2 はTB4処置例においてのみ遺伝子増幅された.VEGFはTB4処置および対照の両サンプルで検出されたが,TB4処置例のほうが発現レベルが低かった.組織学的検索で,合成ペプチドは抜歯後創傷治癒の過程,すなわち血餅の吸収,肉芽組織の形成,再上皮化および骨の新生を早めた.これらの結果は歯科臨床応用におけるTB4の有用性を示した.

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© 2007 九州歯科学会
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