抄録
アングルⅡ級1類の不正咬合と口呼吸との関連性が示されて以来,口呼吸が上顎前突の原因であると言われてきた.しかし,様々な臨床研究においても,動物実験においても上顎前突との関連性は言及されなかった.逆に,反対咬合や開咬などの咬合異常が報告された.一方,歯科医院では不正咬合の原因の把握のため,呼吸に関するアンケート調査が行われ,診断と治療に利用されている.しかしながら,口呼吸と判断されても上顎前突でないもの,あるいは鼻呼吸と判断されても上顎前突であるもの等,両者の因果関係を必ずしも肯定する結果が得られていない.
この理由には,口呼吸の症状と無力性口唇を混同しているからではないかと考えられる.また,鼻閉鎖や閉塞による鼻腔通気抵抗の上昇が口呼吸を誘発されると考えられる.しかし,鼻腔通気抵抗が小さくても口呼吸をする患者,あるいは鼻腔通気抵抗が大きな値でも鼻呼吸をする患者がいる.従って,両者間の関係を評価するためには,呼吸様式を客観的にとらえる必要がある.
一方,大臼歯の垂直的位置は萌出力と咀噌力の大きさと作用時間が垂直的位置を決定していると言われている.我々は歯の萌出力に対して咀噌力が劣勢となると,奥歯が伸びだして下あごが後方回転を示す開咬を発症するのではないかという仮説を立て検証した.口呼吸においては,口腔が咀噌燕下と気道の二つの役目を負うことになり,呼吸は生命を維持する為に最も重要な機能であるので口呼吸時には咀噌活動が中断される.さらに咀噌運動自身も阻害される.食生活の中で口呼吸者の咬合力や咀噌時間,咀噌リズムなどの咀噌機能が低下し,歯の萌出力に拮抗する咀噌力の大きさや作用時間が低下すると,臼歯が挺出することになる.咀噌機能の変化を通じて常習的口呼吸が顎顔面および歯列咬合の垂直的成長発育に影響もたらし,開咬,あるいは切端咬合を発症するメカニズムを示した.