抄録
鼻呼吸は本来人間の生理的な呼吸様式である.鼻閉によって正常な呼吸が障害されると,頭痛,疲労感,睡眠障害,日中の眠気,注意力の低下,QOLの低下などが生じることが知られている.鼻は呼吸器系の門戸に位置し,嗅覚,吸気の加温・加湿.浄化作用,呼吸抵抗による呼吸リズム・深度調節機能などを司っている.鼻閉は頻度の高い上気道症状であり種々の疾患によって引き起こされる.鼻閉の診断は前鼻鏡所見,内視鏡所見,鼻腔通気度検査,音響鼻腔断面積測定,および画像診断によって行われる.治療法の選択はその原因疾患によるが,通常,変動性(可逆性,一過性)鼻閉の場合には薬剤治療が選択され,固定性(非可逆性,持続性)鼻閉や薬剤抵抗性の鼻閉には手術的治療が選択されることが多い.近年内視鏡技術の進歩により,鼻内手術の多くが内鏡視下に施行されるようになっている鼻閉が睡眠呼吸障害の誘因として重要であることは,これまでに複数の疫学・臨床研究によって明らかとなっている鼻閉が睡眠呼吸障害の原因となる機序としては, 1) 鼻腔抵抗の上昇により吸気時の気道陰圧が上昇し,咽頭腔が狭窄する, 2) 鼻呼吸障害が口呼吸を誘導し,開口によって下顎と舌骨が後方へ移動し,その結果舌根が沈下し咽頭が狭窄する, 3)鼻腔気流の減少によって鼻腔内の気流感知受容体への入力信号が減少し,オトガイ舌骨筋などの咽頭開大筋が弛緩して咽頭腔が狭窄する, 4)気流感知受容体への入力信号の減少により直接呼吸中枢の抑制が引き起こされる,といった推論がなされている.とくに乳幼児では解剖学的にみて軟口蓋と喉頭蓋が近接し,鼻閉による睡眠呼吸障害を引き起こしやすい.発育途上にある小児の口呼吸は,顎顔面の成長に影響を与え,上顎の劣成長や下顎の後退を来たし,将来的な睡眠呼吸障害の原因にもなることから,鼻呼吸を行わせる治療的介入が重要である.