抄録
歯内療法とは、Boucher’s Clinical dental terminologyによると「歯髄疾患とその継発
症の病因論、診断、予防、治療を扱う歯科学の一分野」と定義されており、Journal of
Endodontics ; A.A.E.では「根端切除術、再植術、歯牙漂白、ヘミセクション、ルートアン
プテーション、インプラントを含む」という内容が加えられている。
私は日常臨床において歯内療法を、「歯を守るために必要不可欠な、歯の内部および外部、
周囲組織領域に渡る重要な基礎治療の一つ」であると捉えている。そのようなコンセプト
のもと、開業以来21年間歯内療法に一所懸命取り組んできたが、経験を積めば積むほど、
また治療精度を上げようとすればするほど、逆にその難しさと奥深さを痛感し、未だに改
善への試行錯誤を続けているのが実情である。私は、歯科治療の中でも最も難しい治療分
野の一つであると感じている。
たとえば2008年に、私が開業以来行ってきた歯内療法のうち抜髄根管・非感染根管・感
染根管治療について根充後5年以上の経過が確認できた1,408歯の治療成績を、いわゆる「下
川の健康な歯周組織のX線像」を基準にリサーチしたところ、事前の予想を遥かに下回る
結果であった。これから類推するに、一般的に言われている根管治療の成績は私にはとう
てい信用することができず、実際にはもっと低い数字であるに違いないと思っている。
ところで、十数年ほど前から歯科においてはEvidence-Based-Dentistryという言葉が喧伝さ
れはじめ、全ての歯科治療には科学的な根拠が必要で、実際の治療に際してはその根拠に基
づく原則を遵守することが極めて強く求められるようになっている。なかでも歯内療法の分
野では特にこの傾向が強いように感じる。しかし実際の臨床においては、原則を遵守したか
らといって絶対に治療が成功するということはなく、また逆に原則を守らない治療を行って
も結果の良いことはいくらでもある。このような矛盾したことはなぜ起こるのだろうか。
私見ではあるが、研究者により提唱される原則(理想論)と臨床家が持っている実感(現実)
との間は大きく乖離しており、今こそ、この乖離を埋めて歯内療法の実質を高め「臨床結
果に裏付けられた科学的根拠」を整備する責任が双方にあるのではないかと思っている。
本日は、市井の一開業医である私が経験してきた失敗症例を提示しながら歯内療法の盲
点について問題提起をさせて頂きたい。この機会に踏み込んだディスカッションを行い、
多くの先生方の厳しいご指摘とご意見を頂く事ができれば幸いである。