抄録
歯内治療は歯科治療の基本で最も頻繁に行う治療の1つである.しかしながら,治療の習熟のためには経験を必要 とするため,結果をコントロールするのが非常に難しい治療に属する.基本を遵守して行ったにもかかわらず,成功しなかった多くの臨床経験をふまえ,歯内治療における科学的根拠と経験について考えてみた.
歯内治療では科学的根拠と言われているものが臨床医の感覚と乖離していると感じることが少なからずある.これは,臨床成績から得られた科学的根拠が少ないことに起因する.さらに,臨床成績の中には,治癒の判断基準が曖昧で,客観性に乏しいものが散見される.
治癒とはデンタルX線写真で歯周組織が健全であると判断されるものという明確な基準を基に,歯内治療後5年以 上経過した症例を調査した.治癒と判定されたのは抜髄症例で84.5%,非感染根管症例で78.3%,根尖病変を有する 感染根管症例で66.9%であった.この治癒率は予想よりかなり低いものであった.また,治療後に完治したと判断し たものが,再発した経験も少なからずあった.
臨床の科学的根拠は長期の臨床成績から得られると考えるのが必然である.歯内治療の質を高め,患者の歯を守るために研究者と臨床医が協力して,臨床成績に裏付けられた科学的根拠の整備を望むものである.