抄録
Computer-Aided Design/Computer-Aided Manufacturing(CAD/CAM)システムは、オー
ダーメイドを基本とする歯科技工との相性がよく、様々な利益をもたらしている。そのひ
とつは、技工士の職人技に頼っていた成形・加工から、デジタルデータを用いたコンピュー
タ制御の機械加工に変わったことで、均一なものが安価に作れることである。現状では加
工精度などに課題があるが、今後の技術進歩に伴って改善されるであろう。CAD/CAMの
もうひとつの利点は、歯科材料の選択肢が広がることである。以前の手作業中心の成形・
加工は、材料自体に賦形性が必要であった。例えば、比較的低温で溶融・鋳造できる合金や、
加熱や光照射によって重合・硬化できるレジン、築盛して焼成できる歯科用陶材などであ
る。このような賦形性をもつ材料は、産業応用されている実用材料の中では限定的であり、
材料を選ぶ場合にボトルネックとなる。一方、CAD/CAMによる成形・加工は、ブロック
状の素材から任意形状を削り出せるため、材料自体に賦形性は必要ない。この賦形性の制
約から解放されたことによって、優れた材料が歯科に導入されるようになった。その代表
例は、近年脚光を浴びているチタンやジルコニアである。チタンやジルコニアは優れた諸
性質をもつことから、CAD/CAMの登場以前からも一般工業分野では広く普及していた。
しかし、成形・加工が難しい材料であることから、ミクロンレベルの加工精度が求められ
る歯科には限定的にしか使用されていなかった。しかし、歯科用CAD/CAMシステムの登
場により、歯冠修復物や補綴装置などの複雑な成形・加工も可能になった。このように、
歯科用CAD/CAMシステムは、単なる効率的な加工方法としてだけでなく、新規な歯科材
料を生み出す原動力となっている。
歯科用CAD/CAMシステムの導入によって近年注目されている材料のひとつに、レジン
マトリックスと無機フィラーからなるコンポジットレジンがある。日本におけるCAD/
CAM用コンポジットレジンは、2014年に小臼歯の歯冠修復に対して保険適用されてから急
速に普及し始めた。この動向に応じて、各歯科メーカーは種々のコンポジットレジンを開
発・販売している。これらCAD/CAM用に特化したコンポジットレジンは、これまでのも
のと比べ強度などの機械的性質が大きく向上した。一方、臨床に供されるようになって間
もないにもかかわらず、脱離や破折などの失敗例が多く報告されており、更なる改良が求
められている。
本講演では、歯冠修復に使用されるCAD/CAM用コンポジットレジンに焦点を絞り、材
料科学の観点からその機能性を分析し、現状の課題と解決策について考察する。さらに、
演者らが開発している生体を模倣した歯冠修復用の新素材について紹介する。