抄録
九州歯科大学附属病院小児歯科を受診する患児には、様々な背景から多数歯の齲蝕を有する者が居る。そのような 患児には高い頻度で歯科治療に対する不適応行動がみられる。その理由は様々であるが、概ね①低年齢あるいは知的 能力障害のため、意思疎通ができない場合、②自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症等を有する患児の場合、③保 護者や周囲の大人等により、「歯科治療は痛い、怖い」という固定観念を植え付けられている場合、④患児自身が歯 科治療を通じて恐怖体験あるいは痛い思いを経験したことがある場合、等が考えられる。いずれの場合も、歯科治療 の緊急性が高く、歯科治療に適応行動が取れる見込みが低い場合には、全身麻酔下歯科治療が選択肢として検討され るが、歯科治療の緊急性が比較的高くなく、かつ患児の知的レベルが3 ~ 4歳相当以上の場合には、小児歯科医は、まず患児の状況に応じて様々な対応を行う。
①低年齢あるいは知的能力障害のため、意思疎通ができない場合には、歯科麻酔科に依頼して全身麻酔下歯科治療 を行う。また、②自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症等を有する患児の場合、視覚支援を用いながら、構造化を 行う。構造化とは、患児がどこで、何を、どの順番で、どれくらいの時間をかけて行うのかといった情報を明確にす る方法である。また、行動療法としては、自閉スペクトラム症の患児に対しては、レスポンデント条件づけ、系統的 脱感作、オペラント条件づけ、応用行動分析等を行う。また、注意欠如・多動症の患児に対しては、オペラント条件 づけにおける正の強化、タイムアウト法、トークンエコノミー法、レスポンスコスト法等を行うが、低年齢児の注意 欠如・多動症の患児の場合には全身麻酔下歯科治療が適応となることが多い。③保護者や周囲の大人等により、「歯 科治療は痛い、怖い」という固定観念を植え付けられている場合、および④患児自身が歯科治療を通じて恐怖体験あ るいは痛い思いを経験したことがある場合には、患児と意思疎通ができる場合には、行動療法が第一選択となる。行 動療法には、不安軽減法として、レスポンデント条件づけ、リラクセーション、エクスポージャー(系統的脱感作、 フラッディング)、行動形成法として、オペラント条件づけ、応用行動分析、トークンエコノミー、レスポンスコスト、タイムアウト、シェーピング、観察学習として、モデリングがある。しかしながら、これらが奏功しない場合には、 全身麻酔下歯科治療を検討する。
九州歯科大学附属病院小児歯科では、構造化や行動療法等が奏功しないため近医歯科より紹介される患児が多く、 歯科麻酔科との連携は非常に重要である。