抄録
顎骨欠損に対する再建治療後の機能回復手段として、2012年4月1日より「広範囲顎骨
支持型装置」が保険収載された。算定要件としては主に「腫瘍、顎骨骨髄炎、外傷等により、
広範囲な顎骨欠損もしくは歯槽骨欠損症例またはこれらが骨移植により再建された症例」
とされ、2020年度(令和2年度)の診療報酬改定により「6歯以上の先天性部分無歯症又は
3歯以上の前歯永久歯萌出不全であり、連続した3分の1顎程度以上の多数歯欠損である
こと」との要件が追加された。
当院での広範囲顎骨支持型装置症例数は近年増加傾向にあるが、算定要件に鑑みた場合、
適応可能な症例数に比較して実際に広範囲顎骨支持型補綴装置の装着に至った症例は多い
とは言えず、この傾向は概ね他大学病院でも課題となっている。そこで当院において2012
年4月1日から2022年3月までの約10年間で広範囲顎骨支持型装置を装着した患者16名
(合計55本のインプラント埋入)の臨床経過を年齢、性別、居住地域、埋入本数、顎骨欠損
事由、補綴形態を含めて調査したので報告する。
調査結果から、当院では多くの広範囲顎骨支持型装置が腫瘍による下顎顎骨欠損に対し
て適応されており、補綴形態として「床義歯形態」と「ブリッジ形態」が半数ずつ装着さ
れていた。また累積生存率の結果からは、複数本埋入したインプラントが長期的には脱落
を経験しつつも口腔内で広範囲顎骨支持型装置を支持しながら機能している事実が浮かび
上がってきた。インプラント埋入により顎骨欠損後であっても咀嚼機能改善や義歯の安定
性向上、固定性補綴装置の装着など、従来の義歯と比べてより良い補綴治療を提供できた
ことから、保険適応になったメリットは患者にとって大きく、顎骨再建後の機能回復手段
の選択肢として積極的に提案すべき治療の一つであることが示唆された。
本シンポジウムでは広範囲顎骨支持型装置の診療報酬算定要件について2022年度(令和
4年度)の診療報酬改定を踏まえた上で再度整理するとともに、これまでの代表的な症例
について供覧し、調査結果から今後の適応症例数の増加のための展望について論じたい。