経済研究
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論文
非伝統的金融政策としての日本銀行のETF買い入れ
左三川(笛田) 郁子
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2023 年 74 巻 1.2 号 p. 1-32

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抄録

本論は日本銀行が2010年12月に開始した上場株式投資信託(ETF)の買い入れに注目し,高頻度データを用いて日銀の政策反応関数を推定するとともに,中央銀行による大規模かつ継続的な買い入れが株式市場に及ぼした影響について考察するものである.離散選択モデルによる検証の結果,日銀がETFを購入するかどうかは,東証株価指数(TOPIX)の前日終値から当日午前終値までのリターン,TOPIX午前終値の5日移動平均からの乖離率,高頻度データから計測した午前の実現ボラティリティ(Realized Volatility)などが影響していることが確かめられた.また,ETFの買い入れが株価リターンやボラティリティに与えた影響を推計すると,日銀がETFを買い入れた日の午後の株価リターンは買い入れがなかった日よりも上昇する傾向があるほか,Realized Volatilityは低下する傾向が統計的に有意な結果として得られた.一方,予想株式益回りと安全資産利子率の差で表されるTOPIXの予想イールドスプレッドには影響を及ぼしていたことが確認されたが,この点においては,日銀が「リスクプレミアムに働きかける」というETF買い入れの所期の目的を果たしていたと結論付けることは難しい.ETF買い入れ政策の効果については,より幅広い尺度と時間軸で議論する必要があろう.

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© 2023 国立大学法人 一橋大学経済研究所

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