論文ID: er.ar.033824
本研究は「社会生活基本調査」を用いて,1カ月の時間外労働が60時間を超過した部分の割増賃金率引き上げが2010年4月から2023年3月まで大企業のみ対象であったことを利用し,割増賃金率の引き上げと労働時間,その他生活時間との関連を分析した.その結果,判明したことは以下の3点である.
第1に,2010年以降に大企業に勤めている男性雇用者において,1日に11時間以上働く確率が2.2%ポイント減少する.そして,1日の実労働時間も6.36分減少する.第2に,割増賃金率引き上げの対象となる大企業に勤めていると,職場滞在時の始業時刻に変化がないまま終業時刻が早まっている.このことから,実労働時間の減少によって職場滞在時間自体が短くなり,帰る時間が早まったことが推測される.家に持ち帰って仕事をすることは生じていない.第3に,労働時間の短縮によって,男性雇用者の余暇時間が増加する.特に既婚男性は自身の勤め先企業が割増賃金率引き上げ対象の場合,家族との余暇時間が増えた.割増賃金率の引き上げによって職場滞在中の労働時間が短くなり,その時間を余暇にあてていることから,割増賃金率引き上げは人々のワークライフバランスに寄与していることが示唆される.