主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
1,4-dioxaneは合成化学工業において溶媒として広く用いられており、一般的な浄水処理では除去できないため、微量ながら水道水や食物にも存在し、ヒトへの健康被害が懸念される。げっ歯類において肝発がん性を有することが明らかになっているが、その発がん機序は不明である。本研究では、gpt deltaラットを用いて1,4-dioxaneの発がん機序の解明及び定量的発がんリスク評価を行った。遺伝子突然変異を検出するTransgenic動物gpt deltaラットに、種々の用量で1,4-dioxaneを16週間飲水投与し、肝臓における変異原性を検索した。また、肝臓の遺伝子発現解析および前がん病変を指標とした発がん性評価を行った。さらに、変異原性及び発がん性の用量反応関係について、Benchmark Dose (BMD)法を用いてPoint of Departure (PoD)を検討した。肝臓における遺伝子変異頻度及び前がん病変の発生は、2-20ppmまでは対照群と変化なく、200 ppm 以上で増加傾向を、5000 ppmで有意な増加を示した。その際に誘発された変異の特徴はA:T bpの塩基置換であった。また、5000 ppmでDNA損傷修復遺伝子の誘導が認められた。さらに、1,4-dioxaneの変異原性及び肝発がん性には無作用量が存在することと、変異原性のPoDは肝発がん性のそれよりよりも低いことが明らかになった。1,4-dioxaneは変異原陽性物質で、遺伝毒性的発がん機序を介して発がん性を示すことが初めて明らかとなった。1,4-dioxaneの変異原性及び肝発がん性には実際的な閾値が存在することが示された。BMD法を用いることで低用量域における発がんリスクを適切に評価できることが考えられた。