2024 年 197 巻 3-4 号 p. 1-21
本稿の目的は,エドマンド・バークが1790年の主著『フランス革命の省察』を中心に行ったフランス君主政の崩壊の原因分析と,その分析の中で示される原理的な思想について考察することである。バークが描出するフランス君主政の崩壊と専制的民主政の成立は,病的な野心に取り付かれた自由主義貴族,「革新の精神」を寛容する宮廷政府,「古来の国制」への回帰に拘泥するパリ高等法院という,フランス政治を主導すべき3主体の意思決定が連鎖することによる,短期的かつ予期せざる政治的失敗としての性格を有する。バークはこの分析を通じて,階層的な社会において自らにふさわしいと主観的に想定する地位を求め行動することで社会秩序を回復させる「名誉の原理」と,家族内における財産の世襲相続と国民における古来の国制の継承とを類比的に思い描くことで政治秩序に一貫性と安定性をもたらす「相続の理念」を提示し,擁護した。