2024 年 197 巻 3-4 号 p. 23-42
抗体医薬は2000年代以降,製薬業界に最も大きな影響を与えたイノベーションである。この抗体医薬において,日本の製薬大手は日本の製薬大手はロシュ,ジョンソン&ジョンソン,アムジェンなどに比して競争劣位にある。この優劣の差の要因を明らかにするために,本研究では日米欧各大手が採った成長戦略の変遷を追い,経営史の観点から比較分析を行った。その結果,各社はいずれも成長戦略の中心を抗体医薬へ転換させてきたが,各社の戦略転換に時間差があること,また,各社の抗体医薬品の多くは大型M&Aによって獲得したものであるが,各社で大型M&Aに対する姿勢に違いがあったことが明らかとなった。さらにロシュ,メルク,武田の事例を通して,そうした違いが生じた経緯を詳細に辿った。そこからはロシュが圧倒的優位に立つことができた要因,メルクと武田が劣位に至った要因が明らかになった。メルクと武田は過去の成功体験から既存の戦略を過信して,自前主義に拘り,大胆な戦略転換が遅れていた。