抄録
慶應義塾センチュリー赤尾コレクションには、菅原洞斎の自筆稿本『絵師姓名冠字類抄』(3冊)がある。本書は国立国会図書館に所蔵される写本『画師姓名冠字類鈔』(13冊)の草稿で、洞斎が実見した作品の印を、透過紙に敷き写した様子などを伝える貴重な史料で
ある。
本書を契機に、秋田藩絵師の模写本(千秋文庫蔵)、洞斎の弟である狩野秀水家資料(早稲田大学會津八一記念博物館寄託)の二つの模写資料群の調査結果を交え、洞斎の模写活動と『絵師姓名冠字類抄』の編纂事業について明らかにする。
さらに、上記の調査の過程において、秋田藩絵師の活動全体と比較すると、洞斎の関心の大半が中国絵画および室町水墨画に向けられていることが分かった。そこで、洞斎の具体的な模写事例を紹介しながら、江戸時代後期の室町水墨画受容の諸相を探る。