抄録
近年、現代アートのなかで「バイオアート」と呼ばれるひとつのジャンルがある。それは広く生物や生命諸科学に接近した表現をその射程としているが、それらは成熟した情報化社会のなかで、あるいはトランスメディアが可能な環境が整うなかで展開をみせた表現でもある。生物と機械の接近については古くはノーバート・ウィーナーのサイバネティクス理論がそのシステム的側面で芸術論的分析においても検証されるが、遺伝子組換えや組織培養といったより科学的な手続きの導入と、合成生物学のような情報概念に基づく生物学の再構築は、バイオアートにおいてもその表現の展開に広がりを持たせた。
本論では、バイオアートにつらなる情報学と生命科学と芸術表現の接点のうち、1990年代のおよび人工生命に関するコンピュータ・グラフィックス作品を展開したルイ・ベックの分析を軸に、生命と情報との界面に生まれる表現について考察する。