2019 年 54 巻 1 号 p. 8-13
結晶中の欠陥による格子歪み,あるいは,電気的,機械的機能性を制御するために意図的に導入された格子歪みをナノメータースケールで計測することは重要な課題である.透過型電子顕微鏡(TEM)では晶帯軸から結晶性試料を観察すれば格子像あるいは原子コラム像が得られる.最近では,分析機能と併用が可能な走査型透過電子顕微鏡(STEM)による原子コラム像の観測も一般的になって来ている.これらの高分解能電子顕微鏡(電顕)像の注意深い解析により10–2程度の格子歪みの計測が可能な種々の方法が開発されている.ここでは高分解能像を用いた2つの相補的な格子歪みの解析法について解説する:一つは高分解能像上の等価な位置を解析することにより局所的な格子の伸び縮みを計るピーク対解析法(Peak-Pairs Analysis: PPA)であり,他方は電顕像をフーリエ変換により各格子像に分解し,格子像に現れる微妙な格子のずれを幾何位相として計測する幾何位相解析法(Geometric Phase Analysis: GPA)である.幾何位相の考えは暗視野電子線ホログラフィー(Dark-Field Electron Holography)やSTEMモアレ解析(STEM Moiré Analysis)による格子歪み計測にも利用されている.