2023 年 31 巻 1 号 p. 30-35
多くの科学分野においてP値に基づく統計的仮説検定は,主要な統計解析方法の1つとして広く使われている.しかし,近年この方法が持っている本質的な問題点が指摘されるようになってきている.2016年には,アメリカ統計学会(American Statistical Association, ASA)がP値の誤用や誤った解釈に対して警告を発している.
現在一般的に用いられている統計的仮説検定の基本的な考え方は,Fisherが1920~1930年代に開発したものであり,それをのちにNeymanとPearsonが定式化した.この統計的仮説検定の中心的概念の1つがP値である.P値に基づく統計的仮説検定にはいくつかの本質的欠点があるものの,研究者や統計実務者にとって依然として非常に有用な方法である.また,現時点では,これに替わる有力な統計学的方法が確立されているとは言えない.したがって,統計的仮説検定を使う際には,この方法に対する理解を深めたうえで,誤用や間違った解釈に留意しつつ,可能な限り欠点を補う方法を採用していくことが望ましい.