抄録
【はじめに】当院では、褥瘡管理を必要とする症例の多くに何らかの精神疾患を合併しているケースも多い。褥瘡の原因となる脳血管障害、骨・関節疾患等基礎疾患は、ほとんど理学療法(以下PT)の対象となることが多い。しかし、精神疾患を合併したケースでは、コミュニケーションや意欲低下の問題により、積極的なPTによる褥瘡管理が困難となる。今回、統合失調症を合併した症例において褥瘡管理を行い、褥瘡の改善をはかることができたので報告する。
【症例紹介】44歳女性、専業主婦、診断名、統合失調症、家族構成、夫・子2人、現病歴、平成19年1月22日頃より幻覚症状及び食欲低下から寝たきりとなり、同年1月30日医療保護入院となる。入院時CPK9976・CRP 6+ 、筋緊張もあり悪性症候群の疑いと診断。入院前からの同一姿勢、栄養状態不良、自力体動困難により褥瘡形成の恐れがあり、体圧分散マットレス使用し2時間毎の体位変換を行っていたが、両踵部・両足背部・右腰部に褥瘡形成する。
【褥瘡状態の評価及び経過】平成19年2月28日、左踵部 DESING8点 、右踵部 DESING9点、左足背部 DESING6点、右足背部 DESING6点、右腰部 DESING 10点、同年3月22日両足背部治癒。同年4月13日左踵部治癒、右腰部 DESING 10点、右踵部 DESING9点。同年6月14日右腰部 DESING7点、右踵部 DESING8点。
【PT評価及び経過】平成19年2月21日PT開始。初期評価では、右上肢軽度麻痺、両下肢尖足、ADLほぼ全介助。PT開始10日後起居動作軽介助にて可能。除圧動作を中心とした自主訓練プログラム資料配付。PT開始14日後歩行・トイレ動作訓練開始。同年3月14日ポータブルトイレ自立。同年4月2日伝え歩きにて病棟内トイレ自立。同年4月22日病棟内独歩自立。
【考察】褥瘡管理を行っていく過程で、精神疾患を合併した症例においては特にPTの関与は困難なことも多い。本症例においても、依存的な発言が多く全く動こうとはしなかった。しかし何度も声掛けを行い、殿部挙上や寝返り等除圧を中心とした自主訓練プログラム資料の配布や病棟への指導を継続して行うことで、ADLが自立していきPTへの拒否も軽減した。本症例を通し、医師、栄養士、看護師等他職種との連携における褥瘡対策委員会での積極的な情報交換の必要性を再確認し、ADL訓練による身体面の賦活が病棟内レクリエーションの参加等精神面の賦活につながり、離床時間が拡大し褥瘡改善を促すことができた。