抄録
【目的】第9回アジア理学療法学会にて鍼灸医学の循経取穴理論を理学療法に応用して開発した経穴刺激理学療法を紹介し、第46回近畿理学療法学術大会および第42回日本理学療法学術大会では経穴刺激理学療法前後での罹患筋の動作筋電図変化について報告した。本研究では、合谷への経穴刺激理学療法および非経穴への経穴刺激理学療法様の圧刺激が、胸鎖乳突筋の運動前反応時間に与える影響を検討した。
【方法】本研究に同意を得た健常者8名(男性6名、女性2名、平均年齢34.9歳)を対象とした。座位で、合谷(第2中手骨底部)への経穴刺激理学療法前後および非経穴(第1中手骨底)への経穴刺激理学療法様の圧刺激前後に、音刺激を合図に頸部右回旋を連続10回実施した際の左胸鎖乳突筋の運動前反応時間(音刺激より筋電図出現までの時間)を測定した。経穴刺激理学療法および非経穴への圧刺激は、左側への5分間の圧迫刺激とした。刺激強度は、検者の指で痛みを伴わず耐えられる最大の強度で、刺激方向は筋緊張促通目的で用いる斜方向とした。表面筋電図は、安静時、刺激終了直後、10分後、20分後、30分後に記録した。コントロール群として経穴刺激理学療法を行わずに同様の検査を実施した。
【結果】合谷刺激では経穴刺激理学療法の刺激直後から運動前反応時間が短縮し、その傾向は刺激30分後まで持続した。非経穴刺激では、刺激前後の運動前反応時間には大きな変化を認めなかった。コントロール群においても、各々の記録時における運動前反応時間に大きな変化は認められなかった。
【考察】経穴刺激理学療法は循経取穴という経絡・経穴を用いた鍼灸治療の理論を理学療法に応用した方法である。今回用いた合谷は、胸鎖乳突筋上を通過する手陽明大腸経に所属する経穴である。また、効果検討に用いた運動前反応時間は、中枢神経機能を示す一つの指標である。今回は、合谷への経穴刺激理学療法と、経穴でない部位(非経穴)への経穴刺激理学療法様の圧刺激によって中枢神経機能に変化が認められるか否かを、運動前反応時間を用いて検討した。その結果、合谷への経穴刺激理学療法においてのみ運動前反応時間の変化がみられたことから、経穴および非経穴に同様の刺激を行っても中枢神経機能に変化をもたらすのは、経穴に特異的な変化であることが示唆された。
【まとめ】経穴刺激理学療法における中枢神経機能の促通は、経穴特異的な反応であることが示唆された。