近畿理学療法学術大会
第47回近畿理学療法学術大会
セッションID: 38
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乳癌術後に対する女性セラピストの試み
~肩関節可動域とQOLに着目した1症例~
*松本 恵以子西尾 あい千葉 一雄森 憲一増井 健二
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キーワード: 乳癌, QOL, 女性セラピスト
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抄録

【はじめに】今回,左乳癌により胸筋温存乳房切除術を施行した症例を経験した.肩関節可動域テスト(以下ROM-T)に加え,SF-36v2を用いてQOL評価を試み,チームアプローチを行い改善が得られたので考察を加え報告する.
【症例紹介】55歳女性,清掃業.平成19年4月9日左乳癌と診断され,4月20日入院し,23日胸筋温存乳房切除術(Auchincloss法)・リンパ節郭清施行.5月11日より抗癌剤投与開始され,13日退院.
【術前評価】術前におけるROM-Tでは左肩関節屈曲180°外転180°外旋(第2肢位,以下省略)95°.SF-36v2下位尺度において各項目100点満点中,身体機能85点,精神的QOLを示す心の健康は75点,身体的・精神的両側面のQOLを示す全体的健康感は55点であった.
【術後経過】術後翌日より理学・作業療法開始.左上腕内側部のしびれを認め,術創部痛ならびに左大胸筋周囲の伸張痛により左肩関節屈曲90°外転50°外旋65°と著明なROM制限を認めた.肩関節のみでなく脊柱や胸郭に着目し,早期から呼吸介助,ポジショニングによる大胸筋伸張,軟部組織モビライゼーションを作業療法士とともに協同的に実施.術後3日目にはドレーンチューブ留置下においても左肩関節屈曲150°外転100°外旋80°に改善した.また,術後早期より家事や就業を取り入れた動作練習を実施した.
 術後1週目で左肩関節屈曲155°外転120°外旋90°.身体機能65点,心の健康50点,全体的健康感45点.
 術後3週目に抗癌剤投与開始.自宅退院となり,外来継続.スキンローリングを治療プログラムに加え,左肩関節屈曲160°外転135°と改善したが,SF-36v2では身体機能75点,心の健康15点,全体的健康感35点と低下した.抗癌剤投与の副作用として脱毛への不安を強く抱いており,看護師より鬘販売店紹介を含む脱毛への具体的対処法の説明により鬘を購入され,心の健康が4週目には40点と改善した.
 術後5週目から肋間筋ストレッチを治療に加え,左肩関節屈曲180°外転180°,身体機能90点,心の健康15点,全体的健康感45点となるが,左術創周囲への違和感が残存.
 術後11週目には身体機能95点,心の健康65点,全体的健康感45点で,左術創周囲の違和感は消失した.
【考察】肩関節のみでなく脊柱や胸郭に着目し,術直後より女性理学・作業療法士が地肌に対する直接的なアプローチを協同的に実施した.早期にROMが改善し,より早期に家事や就業動作を獲得できた.しかし乳癌治療では,従来の機能評価や能力評価(ICIDH)では網羅できない問題が多く存在した.今回乳癌術後症例において身体機能以上に精神機能がQOLに大きな影響を与えた.左肩関節ROMとSF-36v2をモニタリングし,身体・精神両側面からチームアプローチを行うことができた.

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© 2007 社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
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