抄録
【目的】
大腿骨頚部骨折は高齢者に多く発生し、脳血管障害や痴呆とともに介護が必要となる主要な要因といわれている。当院でも転倒受傷により大腿骨頚部骨折の術後早期から介入している中で、退院までに自立歩行が困難なケースもみられる。自立歩行の可否の判断をする評価項目の一つにTimed Up & Go Test(以下TUG)があるが、術後早期では歩行は困難であるためTUGは不可能である。そこでTUGと相関関係にあるといわれるFunctional Reach Test(以下FRT)を術後早期の大腿骨頚部骨折術後患者に実施して、退院時の歩行能力に影響しているかを調べた。
【対象】
対象は2007年1月~6月まで当院で大腿骨頚部骨折後の観血的治療を受けた患者で、受傷前まで自立歩行が可能で退院時にTUGを実施できた7名を対象とした。平均年齢は79±5.1歳、患肢は右3名、左4名、手術方法はTHA 4名、CHS 3名であり、合併症は変形性膝関節症2名、心不全1名、拘束性換気障害1名、合併症なし3名であった。入院期間は平均35.9±10.5日、車椅子離床開始日は平均2.3±0.8日、理学療法期間は平均23±9.1日であった。
【方法】
FRTは術後に手放し立位が可能になった日と退院時に測定した。方法は両下肢を肩幅に開いた立位で前方へ手を伸ばした距離から、より前方へ移動した距離をメジャーを用いて測定した。TUGは退院時に測定し、椅子座位から立ち上がり、可能な限り速く歩行して3m先の目標物を回って再び椅子に座るまでの所要時間を測定した。統計学的検討にはPearsonの相関係数の検定を用いた。
【結果】
術後早期に測定したFRTと退院時のTUGとの間に有意な相関関係(P=0.051)は見られなかった。また術後早期で初めてFRTを測定した日とTUGとの間に相関関係はなかった(r=0.41)。
【考察】
今回の結果で術後早期のFRTとTUGは有意に相関するとは言えなかったが、相関係数(r=-0.75)より相関する傾向にあると思われる。症例数が少なく合併症にばらつきがあるため、急性期の評価で指標になるとは言えないが、今後検討する余地があると考えられる。
【まとめ】
1.大腿骨頚部骨折術後患者に術後早期からFRTと退院時にTUGを測定し、 退院時の歩行能力に影響しているかを調べた。
2.今回の結果で術後早期のFRTとTUGは有意に相関するとは言えなかった が、相関する傾向にあると思われる。
3.症例数が少なく合併症にばらつきがあるため、急性期の評価で指標に
なるとは言えないが、今後検討する余地があると考えられる。