近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
セッションID: 13
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座位姿勢における足底圧覚弁別学習が片脚立位重心動揺に及ぼす影響
*中野 英樹三鬼 健太生野 達也奥埜 博之塚本 芳久森岡 周
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抄録

【目的】転倒要因の一つとして加齢と共に衰える体力,特に立位姿勢制御能力の低下が数多く報告されている.立位姿勢制御の維持のためには感覚系(視覚,前庭・迷路覚,体性感覚)による求心性情報の影響が大きく,中でも体性感覚機能の低下は加齢に対して直線的な傾向を示すことが明らかにされている(森岡,2005).近年,リハビリテーションの分野においても体性感覚に基づく弁別課題が用いられることが多くなってきている.Moriokaらは立位姿勢にて足底でスポンジの硬度を弁別する課題を行うことで,立位重心動揺が有意に減少することを明らかにした(2003,2004).一方,ある課題や状況で達成された学習が他の課題や状況下での遂行を可能にすることは学習の転移と言われ,それには類似性転移と異質性転移がある(Schmidt,1991).実際の行為とよく似た練習課題によって転移を達成する類似性転移に比べ,異質性転移は目的とする行為とは異なった練習課題であり,動作や行為自体を練習課題にしない方略である.そこで本研究では立位姿勢とは異なる環境の座位姿勢で筋収縮を伴わない受動的な運動での足底圧覚弁別学習を行い,それが片脚立位姿勢の重心動揺に及ぼす影響について明らかにする.
【方法】対象は健常成人12名とし,無作為に選出した6名を課題実施群とコントロール群に分けた.課題実施群には座位姿勢で足底部に設置した素材や形状は同じだが硬度の異なる5種類のスポンジの硬度を弁別する課題を10日間実施した.測定者が対象者の足部を他動的に動かして以下の順にスポンジを踏ませた.1)上昇系列に1から5まで,2)下降系列に5から1まで行い,1)2)では対象者に足底部の圧覚に基づいてスポンジの硬度の記憶を求めた.3)異なる硬度のスポンジをランダムに5回行い,対象者にはいずれの硬度のスポンジかを判断させた.この際結果の知識は判断直後に与えた.4)異なる硬度のスポンジをランダム表に基づき10回行い,対象者にはいずれの硬度のスポンジであるかを判断させた.この際結果の知識は与えなかった.なお4)の誤判断数を課題効果の結果とした.コントロール群には1)2)3)4)を硬さの記憶や判断を求めずに計10日間実施した.課題を実施した10日間の前後での開眼及び閉眼片脚立位重心動揺を測定し,抽出項目は総軌跡長,外周面積とした.
【結果】4)の誤判断数の平均値は,施行回数を重ねるごとに有意な減少がみられた.重心動揺では課題実施群において10日間課題実施後の開眼及び閉眼片脚立位時の総軌跡長,外周面積に有意な減少がみられた(p<0.05)のに対し,コントロール群では有意差はみられなかった.
【考察】コントロール群,課題実施群ともに運動条件は同一であり,物理的な身体経験には差がない.また環境は座位姿勢,他動運動であり立位姿勢とは異なる.このことから座位姿勢にも関わらず体性感覚に基づいた弁別行為を求め,注意や記憶,判断といった認知過程を内在したことが学習の異質性転移を促し,立位姿勢制御能力の有意な向上をもたらしたと考える.

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© 2008 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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