抄録
【目的】立位姿勢で床面に接地しない状態の足趾を「浮き趾」と言う.近年,幼児における浮き趾の大幅な増大や健常成人における浮き趾の実態が報告されている.しかし,浮き趾と身体の姿勢調節についての報告は少ない.そこで,筆者らは浮き趾の有無と重心動揺に着目し,足圧中心(以下COP)軌跡を用いて調査を行ってきた.この度,浮き趾の有無により,片脚立位時COP軌跡の左右最大幅(以下MX)と前後最大幅(以下MY)の関係において興味ある知見が得られたので報告する.
【対象と方法】対象者は,文書による同意の得られた健常成人22名,平均年齢27.5歳±9.0(男性15名女性7名)であった.この内,浮き趾のない者(以下GC)は8名,浮き趾のある者(以下GF)は14名であった.30秒間の片脚立位における重心動揺を測定した.測定は,重心動揺計(Nitta社製マットスキャン)を用いた.得られたCOPデータから,MXとMYを算出し,身長補正を行った.片脚立位の測定姿勢は,東京都立大学体力標準値研究会『新・日本人の体力標準値2000』による実験指標に基づいた.統計処理は,マンホイットニーの検定,スピアマン順位相関係数検定を用いた.
【結果】MYとMXの相関関係を算出したところ,GCは相関係数0.74(p<0.01),GFは相関係数0.56(p<0.01)で,いずれも有意な正の相関を認めた.MXの平均値は,GCが2.90cm±0.58,GFは3.22 cm±0.93で,両者の間に有意差は認められなかった.MYの平均値はGCが6.87cm±2.62,GFは5.02 cm±1.56で,両者の間に有意差が認められた(p<0.05).また,MYにおけるMXの比(MX/MY)を算出した結果,GCの平均値は0.50±0.13,GFは0.61±0.16で,両者の間に有意差が認められた(p<0.05).
【考察】MYとMXの関係ではGC,GFともに有意な相関があったことから,COP軌跡の2次元座標上左右軸の最大幅の増大に伴い,前後軸の最大幅も増大することはGC,GFに共通であると考えられる.MX平均値をGCとGFで比較したところ,有意差は認められなかったが,MYの平均値はGFが有意に小さいことが認められた.さらに,MX/MY比の平均値においてもGFはGCより有意に大きく,GFはGCに比べて前後の重心移動を制限した重心動揺が生じていることが考えられる.
【まとめ】GCとGFの身体に及ぼす影響について,片脚立位姿勢保持におけるCOPのMXとMYについて調査した. MYの平均値はGFの方がGCに比べて有意に小さかった.MYとMXはGCとGFいずれも相関が認められ,MYに対するMXの値の比較では,GFがGCより有意に大きかった.これにより浮き趾の有無と,COP軌跡の前後最大幅には何らかの関係性があることが示唆された.