近畿理学療法学術大会
第49回近畿理学療法学術大会
セッションID: 102
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対象依存性半側空間無視の改善とともに身体機能の向上を認めた慢性期脳卒中患者の1症例
身体・物体中心座標系の統合による空間認知能力に着目して
*村部 義哉江口 拓田中 貴幸木村 大輔
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抄録
【はじめに】半側空間無視(以下USN)が慢性期においても残存する要因として、空間性注意能力の右側への偏移に伴う身体表象の変質が示唆されている。USNに対する治療戦略として、空間性注意能力の再獲得や身体表象化能力の改善を図る治療方法が提唱されている。また、空間認知能力は身体中心座標と物体中心座標の相互作用が必要となる。今回、対象依存性半側空間無視を呈した症例に対し、空間性注意能力の獲得と物体中心座標と身体中心座標の統合を目的として治療を行ったところ、良好な結果が得られたので報告する。 【症例紹介】本治療方針の同意を得た発症後3年が経過した脳卒中左片麻痺患者。半側空間無視重症度分類グレード2、BIT行動性無視検査(日本版)における通常検査110/146点であり、特に線分二等分試験において物体中心座標に特異的な認識障害を認め、対象依存性半側空間無視の症状が疑われた。立ち上がり動作は中等度介助レベルであるが、麻痺側付近に手すりや壁などの物理的制限を認める環境においては著明な共同運動パターン出現による重心の右方変位が認められ最大介助レベルとなる。 【病態仮説】本症例は右半球の器質的損傷による空間性注意能力の右側偏移により、麻痺側における知覚と運動の統合が障害された為、身体表象が変質している。また、物体中心座標と身体中心座標の空間情報の統合に問題をきたし、麻痺側における物体の時間・空間的変化に対する視空間情報を処理できず、麻痺側に物体がある環境下において異常筋緊張が出現しているものと考察した。 【訓練】麻痺側上下肢にて身体からの距離(身体中心座標)と碁盤上の上肢の位置(物体中心座標)のそれぞれに注意を向けた状態で異種感覚モダリティ(視覚、位置覚、運動覚、重量感覚)の統合を図った。訓練の進行とともに、両座標系に同時に注意を向けるよう誘導しつつ課題を行い、知覚と運動の統合による麻痺側への空間性注意能力の活性化、両座標系の統合を図った。 【結果】BIT行動性無視検査(日本版)における通常検査137/146点へと向上し、対象依存性半側空間無視の軽減が認められた。同時に、共同運動パターンの軽減により立ち上がり動作が環境の影響を受けずに最小介助~近位監視にて可能となった。 【考察】USNの責任病巣として頭頂葉、前頭葉、帯状回があり、これらは特定の対象に対する注意の集中や持続、複数の感覚モダリティの統合による空間情報の認知と運動出力、身体表象の再現に関与するとされている。半側空間無視の病態仮説である空間性注意に対して、各感覚情報や座標系の一貫性を保証することで身体表象を更新していく治療戦略が有効となる可能性がある。本症例においては麻痺側の体性感覚情報の一貫性、知覚-運動の統合、及び物体中心座標・身体中心座標の統合によって適切な空間認知能力が獲得された結果、空間性注意能力の向上、及び身体表象が修正され、身体機能の改善が認められたものと思われる。
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© 2009 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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