抄録
【はじめに】
整形外科疾患の後療法において,疼痛による不良姿勢や安静固定によって横足根関節回内や股関節内転に可動域制限を認めることがある。これにより患側下肢への荷重が十分に行えず跛行を呈し,対側下肢への負荷が増加する例を経験する。これらに対し下肢長軸方向への反復圧刺激エクササイズ(以下EX)を施行することで,下肢への荷重量増加が可能である。そこで今回,EX前後の重心動揺,横足根関節回内,股関節内転の関節可動域を測定し,EXの有効性を検討したのでここに報告する。
【対象と方法】
本研究に同意を得た下肢骨関節疾患患者7名(平均62.7±8.7歳)を対象に,EX前後の重心動揺と関節可動域を測定した。重心動揺の測定肢位は足部の中心を舟状骨粗面に合わせ,17cm幅で開脚した開眼静止立位とした。測定は下肢荷重計(アニマ社製G-620)を用いて30秒間実施した。関節可動域測定は,背臥位にて横足根関節回内と股関節内転を他動的に行った。EX肢位は背臥位とし,荷重量の低値を示した側の股関節を軽度屈曲内転位,膝伸展位,足関節底背屈中間位とした。この時,検者は対象者の下肢を背側から支え脱力させた。足底から長軸方向へ揺するように加える反復圧刺激は,検者の腹部を用いて対象者に不快感や恐怖心を与えない程度に5分間施行した。得られた結果から総軌跡長,前後方向軌跡長,左右方向軌跡長,荷重量,関節可動域の比較を行った。統計処理は対応のあるt検定を用いて,危険率5%未満とした。
【結果】
総軌跡長,前後方向軌跡長に有意差はなかった。左右方向軌跡長はEX前22.8±8.0cm,EX後17.2±3.6cmと減少した(p<0.05)。荷重量はEX前40.0±10.7%,EX後45.0±11%と増加した(p<0.01)。横足根関節回内はEX前8.0±3.2°,EX後13.0±3.9°と増加した(p<0.01)。股関節内転はEX前16.6±2.9°,EX後は23.7±7.4°と増加した(p<0.05)。
【考察】
EXにより横足根関節回内と股関節内転の可動域が拡大した。これは股関節を軽度内転位にて長軸方向へ加えた圧刺激により,横足根関節では回内方向へ,股関節では内転方向への他動的な運動が生じ,両関節の可動域拡大が得られたと考える。EX施行側の横足根関節回内可動域が拡大したことで,足部と床面との接触面積が増大し支持性が向上したために下肢荷重量が増加したと推察された。また,股関節内転可動域の拡大により内転方向への下肢アライメントの誘導と内転位での荷重が可能になったと考える。総軌跡長,前後方向軌跡長に変化を認めず,左右方向軌跡長に減少が見られたことからEXは足関節および股関節の前額面上における荷重コントロールに影響を与えると考える。よって,荷重量増加においてEXの有効性が示唆された。