抄録
【目的】
股関節疾患と脊椎疾患が互いに影響を与えることが報告されている。今回、腰椎変性疾患患者における腰椎X線所見と股関節可動域、体幹筋持久力に着目し、日常生活動作との関連を検討した。
【対象と方法】
対象は本研究の趣旨を説明し同意を得た、腰椎変性疾患による腰痛と診断された股関節疾患のない33名(平均年齢70.7±10.2歳、男性11名・女性22名)である。腰椎アライメント評価として腰椎前弯角を自然立位矢状面にてX線撮影を行い、Jacksonの方法(L1椎体上縁からS1椎体上縁まで)を用いて測定した。股関節可動域は日本整形外科学会の方法に準じ、屈曲、伸展、外旋、内旋を測定し、また別法として、腹臥位による外旋、内旋を計測した。測定の精度を高める為、検者1名が被験者下肢を保持し、もう1名がゴニオメーターにて計測を行った。体幹筋持久力測定はクラウス・ウェーバーテストの変法から体幹屈筋群1項目及び伸筋群1項目を測定した。臨床所見と日常生活動作は日本整形外科学会の腰痛疾患治療成績判定基準(以下、JOAスコア)を用いて点数化した。各測定項目の相関関係をSpearmanの順位相関係数(有意水準5%未満)を用い、検討した。
【結果】
腰椎前弯角(前弯を+表示)は平均37.3±19.1°であった(最大69.3°最小-19.5°)。JOAスコアは平均23.8±5.4点であり、腰椎前弯角とJOAスコアにおいて有意な相関は認められなかった。体幹筋持久力は屈筋群28.1秒±20.0秒、伸筋群34.6秒±23.8秒であり、伸筋持久力にのみJOAスコアと有意に正の相関(r=0.61,p=0.0002)が認められた。股関節可動域と腰椎前弯角の関係ついて、股関節伸展可動域(右17.4°± 9.4°,左18.9°± 8.4°)は腰椎前弯角(右:r=0.45 p=0.008,左:r=0.37 p=0.036)および、JOAスコア(右:r=0.35 p=0.05, 左:r=0.42 p=0.01)と有意な正の相関が認められた。
【考察】
腰椎変性疾患による腰痛患者群における腰椎前弯角は平均値37.3°±19.1°であり、従来報告されている健常群の腰椎前弯角1)2)
と比べ、小さい傾向があった。腰椎前弯角の減少は腰痛の原因になり得ることが考えられる。しかし、本研究において、腰椎前弯角とJOAスコアには相関がないことから、腰椎変性疾患による腰痛を有する患者群の腰椎前弯角の減少が直接JOAスコアの低下につながるものではなく、腰痛の増強因子となることはないと考えられる。
体幹筋力については、腰椎後弯化により特に体幹伸展筋力の低下傾向が報告されているが3)今回、体幹伸筋持久力は、腰椎前弯角との相関がなかった。しかし、JOAスコアと相関することから、姿勢保持に寄与する体幹伸展筋持久力の向上が、腰痛の軽減につながり、結果として日常生活動作能力の向上に関与することが考えられる。つまり、腰椎変性疾患における腰痛を有する患者の治療として重要な項目であると言える。今後、運動療法の介入による体幹伸展筋持久力の向上の有無と腰椎前弯角、JOAスコアの変化についても考察する必要性が考えられた。
一方、股関節伸展可動域については腰椎前弯角とJOAスコアに相関することから、股関節伸展可動域の向上は、腰椎変性疾患患者における腰痛の原因になり得ると考えられた腰椎前弯角の減少を改善する可能性がある。すなわち、腰椎変性疾患における腰痛を有する患者の重要な治療であると言える。さらに股関節伸展可動域の維持・向上は、腰椎変性疾患を有するが腰痛のない患者に対する腰痛発生の予防であることが示唆される。
【文献】
1) 金村徳相・他:日本人の脊柱矢状面彎曲とその評価,The Journal of Japanese Scoliosis Society Vol.18 No.1 ,2003
2) 佐々木邦雄・他:股関節~腰仙椎の矢状面アライメントのレ線学的検討,整形外科と災害外科50;(4)1015~1017,2001.
3) 勝田治己,古川良三:老人の姿勢と体幹機能;PTジャーナル第25巻第2号,82-87.1991