近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 84
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予後予測を上回る改善を示した超高齢者大腿骨頸部骨折の一症例
*守 義明森嶋 愛(OT)上村 洋充望月 佐記子(MD)岩本 一秀(MD)
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抄録

【はじめに】
 大腿骨頸部骨折の理学療法の目的は、寝たきりとなる期間を最小限に抑え、機能回復期間、入院期間の短縮を図り、さらに早期に受傷前の歩行レベルに回復させ、社会復帰を図ることにある。そのためには、早期離床といった加速的な理学療法アプローチが重要となる。
 このような疾患ではクリティカルパス運用により急性期からの治療が円滑に行われるようになっている。その指針を決定しやすくするため、多くの予後予測について報告がみられる。中でも、超急性期からのアプローチの重要性が明確になされている現状より早期においての予後予測も散見され、当院でも調査検討中である。
 しかし、疾患の特徴として受傷者には高齢者が多く、すでに高血圧や糖尿病・心疾患などを合併していることが多い。特に、90歳以上の超高齢者は身体的予備能力が乏しく、内科的合併症や痴呆を抱えているだけでなく、回復意欲が低下している場合も少なくない。そのため、早期から十分なアプローチが行えず、予後予測が困難なケースも多い。
 今回我々は、超高齢者で内科的合併症を有する大腿骨頚部骨折患者において、当初の予後予測を上回る改善を示した症例を経験し、そのアプローチについて検討したので報告する。

【症例紹介】
 92歳、女性、身長149.5cm、体重36.9kg、BMI16.5、合併症は高血圧、高脂血症、便秘、腰痛を伴い、2度の脳梗塞と左側大腿骨頸部骨折を既往に認める。認知機能に問題なく理解良好、明らかな運動麻痺なく受傷前ADLは全て自立しており近隣への杖歩行が可能であった。
 今回、平成21年7月26日転倒により右側大腿骨頸部骨折受傷し当院搬送、同年8月3日人工骨頭置換術施行され第1病日より理学療法開始となる。

【治療および経過】
 術後も認知機能低下を認めず理解良好、協力的に理学療法が行えた。経過として、早期離床を促すべく第1病日より車椅子乗車し、第2病日より平行棒内歩行を開始した。第3病日に平行棒内歩行3往復することが可能。この時点で、藤田らの報告を参考に、前期高齢者であれば術後3週間で杖歩行可能レベルであるが、本症例は超高齢者であることを考慮し、屋内杖歩行可能レベルと予後予測を低めに設定した。
 その後、第7病日にT字杖歩行を開始し、第28病日に屋内T字杖歩行監視レベル、第35病日には屋内シルバーカー歩行自立となり、当初の予後予測と概ね同レベルまで到達した。
 この頃、病棟内での歩行や立位動作など活動量が徐々に増し、下肢筋力もMMT4まで向上している一方、立位において腰部伸展・骨盤前傾位で姿勢を固定してしまうといった腰部・骨盤帯の機能低下による姿勢不良が残存した。そこで、この機能改善を目的にコアスタビリティに着目し、背臥位での腹筋群の促通、端座位での骨盤前後傾ex、バランスボールexなどを加え治療継続した。
 結果、第75病日には当初の予後予測を上回る屋外杖歩行監視レベルまで到達し、自宅復帰を果たした。

【考察】
 一般に、股関節の機能障害に対する手術後には下肢筋力トレーニングを始め動作・歩行練習を繰り返し行い、身体活動性を高めることで全身的な機能回復が得られる。しかし、本症例では術後経過においてシルバーカー歩行が自立し、立位動作や歩行など活動量の増加が得られたにもかかわらず腰部・骨盤帯の機能低下が顕著に残存していた。概ね予後予測に達したこの時期に治療終了となる場合が多いが、今回継続して治療を行える機会を得た。
 そこで、この特徴的な機能低下に対し、一般的な大腿骨頸部骨折術後理学療法アプローチに加え、コアスタビリティに着目し腰部・骨盤帯機能向上に取り組んだ。このことにより体幹筋筋活動を高め、腰部の安定性と骨盤帯固定性を高めることでより高い下肢・体幹の協調的な動作を獲得し、結果、当初の予後予測を上回る歩行能力の獲得につながったと考える。
 超高齢者における大腿骨頸部骨折術後患者の歩行獲得率は、30~50%程度と報告によって差が大きいことや、リスク面の考慮により適切な手術が必ずしも施行可能とは限らない事などから予後予測の難しさが伺える。
 よって、超高齢者においては一般的な予後予測からだけでは十分に推測することが困難なケースもあり、多岐に渡る合併症や身体能力低下など個々に応じた問題点を把握し、適切なアプローチを加え予後予測の修正を検討しながら理学療法を実施すべきである。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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