近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 85
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直視下アキレス腱縫合術後の理学療法経験
-腓腹神経障害と底屈筋力に着目した一症例-
*細見 ゆい小野 志操若林 詔(MD)
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抄録

【はじめに】アキレス腱断裂はスポーツ競技中や転倒時に生じることが多く、治療方法として保存療法と手術療法がある。一般に早期荷重、早期自動運動を必要とする場合には手術療法が選択される。手術療法には直視下縫合術と経皮的縫合術があるが、直視下縫合術の利点として再断裂の危険性が少なく、早期より縫合部の強度が強いとされている。しかし、癒着や瘢痕の残存する可能性があるとされている。今回、直視的アキレス腱縫合術後に腓腹神経障害を呈した一症例の理学療法を経験した。経過と結果に考察を加え報告する。
【症例紹介】30歳代の男性である。階段降段中に足を踏み外し、足関節が背屈位に強制された状態で転倒した。その後、痛みが出現し歩行が困難となったため、当院整形外科を受診した。徒手検査の結果、左アキレス腱断裂と診断された。受傷3日目に直視下アキレス腱縫合術が施行され、ギプス固定となった。術中所見では、筋腱移行部での断裂が確認された。術後4週目にギプスが除去され、同日より理学療法開始となった。本症例は配達業であり、週1回の頻度で野球を行っている。
【説明と同意】発表にあたって、本症例に対し発表の目的と意義について十分に説明し、同意を得た。
【初診時所見・理学療法】腫脹・熱感は見られなかった。足関節可動域(患側/健側)は、背屈-40°/30、底屈50°/50°であり、徒手筋力評価(以下、MMTと略す。表記は患側/健側とする。)では、足関節背屈3/5、底屈1/5であった。足趾に制限は見られなかった。アキレス腱と短腓骨筋の滑走性低下がみられた。踵骨外側から小趾背側にかけて表在感覚障害が存在し、表在感覚は健側と比較して5/10程度であった。足関節背屈や足部内返しにより、同部に放散痛が生じた。外果より3cm近位後方にて腓腹神経のティネル徴候が陽性であった。荷重は許可されておらず、移動は完全免荷での両松葉杖歩行であった。
腓腹神経痛改善、足関節背屈可動域改善、底屈筋力増強を中心に週5回の頻度で理学療法開始した。腓腹神経痛に対しては(1)腓腹神経癒着剥離操作、(2) 腓腹神経の滑走性改善を、足関節背屈可動域改善に対しては(1)アキレス腱縫合部周囲癒着剥離操作、(2)アキレス腱と筋腱移行部滑走性改善、(3)下腿三頭筋ストレッチ、(4)短腓骨筋癒着剥離操作とストレッチを行った。歩行は足関節背屈制限装具(以下、装具と略す)にて7cm補高した状態で行った。また、組織の修復と足関節可動域に応じて段階的に補高を下げていった。
【理学療法・治療経過・結果】術後5週目より装具装着下にて上肢支持なし歩行が可能となった。術後10週目に装具なしでの歩行が可能となった。術後11週目に職場復帰可能となったため、理学療法実施頻度を週2回とした。術後13週目には両側つま先立ち可能となり、ジョギングが可能となった。術後14週目の時点で、足関節可動域は背屈25°、底屈50°であり、MMTは足関節背屈5、底屈2であった。表在感覚障害は踵骨外側に9/10程度と軽度残存したが、同部にみられた痺れと痛みは消失した。腓腹神経のティネル徴候も陰性となった。周径は健側と比較して下腿最大周径は94%であり、筋萎縮が考えられた。下腿最小周径は107%であり、アキレス腱の肥厚が考えられた。日本整形外科学会足部疾患治療成績判定基準(JOAスコア)は83点であった。
【考察】直視下縫合術は修復部と皮下の癒着が問題となる。また、本症例は筋腱移行部の断裂であり、踵骨付着部付近の断裂に比べ修復部が広範囲に及ぶため癒着は広範囲に起こりやすかったと思われる。本症例は直視下縫合術を施行されており、ギプス固定時より外果上後方から踵骨外側にかけて腓腹神経領域の感覚鈍麻が生じていた。本症例における腓腹神経障害はギプス固定による圧迫と腓腹神経の癒着によるものと考え、理学療法を展開した。その結果、感覚障害は軽度残存したが、痺れと痛みは消失し、足関節背屈可動域も良好に改善した。しかし、足関節底屈はMMT2と筋力低下が著明であり、スポーツ復帰困難となっている。Mortensenらは、アキレス腱断裂術後の足関節底屈筋力は健側の89%に低下するとし、スポーツ復帰までの期間は6ヵ月(2.5~13ヵ月)を要すると報告している。本症例は現在も理学療法を継続中であり、今後再断裂に十分留意して底屈筋力の増強を行っていく必要がある。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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