近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 108
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大腿骨近位部骨折患者の歩行自立可否に影響する因子
認知機能評価からの検討
*阪中 陽介佐々木 隆行角谷 直彦(MD)
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抄録

【目的】
 大腿骨近位部骨折は高齢者に起こりやすい骨折の一つであり,自立歩行の可否は退院後の生活に大きく影響すると考えられる.回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)転棟時に患者の自立歩行の可否を予測することは,リハビリテーション(以下,リハビリ)を進めていく上で重要である.大腿骨近位部骨折に関する先行研究は多く,歩行に影響する因子の一つとして,認知機能が歩行能力に影響すると報告されている.藤田らによると,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)が16点以上であれば確実に歩行能力を維持できたと報告されている.今回は,認知機能が自立歩行の可否に影響するのかについてFIM認知項目とMini‐Mental State Examination(以下,MMSE)を用いて検討することとした.
【方法】
 対象は2010年4月から2011年3月までに大腿骨近位部骨折にて,当院の回復期リハ病棟に入院した患者で,年齢は80歳以上,病前の屋内歩行が自立していた25名(男性5名,女性20名,平均年齢86.6±4.8歳)とした.術式はBHA 7例,γ‐nail 17例,ピンニング 1例であった.認知機能の評価は,回復期リハ病棟転棟時(以下,転棟時)のFIM認知項目(理解,表出,社会的交流,問題解決,記憶),MMSEの6項目とした.退院時の歩行をFIM6点以上の自立群と5点以下の非自立群に分類し,Mann‐whitneyのU検定にて各認知機能評価を2群間で比較した.次に自立群,非自立群を従属変数,2群間比較で有意差のみられたものを独立変数とし,ロジスティック回帰分析を行った.さらにロジスティック回帰分析により選択された項目を用い,自立歩行可否を予測する為のカットオフ値をROC曲線にて算出した.統計処理はSPSS Statistics 19を用い有意水準5%未満とした.
【説明と同意】
 対象者には研究に際し説明を行い,同意を得た.またデータの取り扱いには十分注意を払った.
【結果】
 退院時,自立群は15名,非自立群は10名であった.自立群と非自立群で各認知機能評価を比較した結果,FIM認知項目の理解,表出,問題解決,記憶,MMSEに有意差がみられた.次にロジスティック回帰分析を行った結果,退院時の歩行に影響する因子としてMMSE(オッズ比:0.732,p<0.01)が選択された.さらにROC曲線よりMMSEのカットオフ値を18点と判断した.感度0.867,特異度0.8,曲線下面積(以下,AUC)0.89であった.
【考察】
 結果より,先行研究と同様に歩行能力に認知機能が影響することが示唆され,認知機能の低下は自立歩行を獲得していく上で阻害因子になると考えられた.今回,認知機能評価の中でもMMSEが自立歩行可否に影響する因子であると考えられた.
 さらにROC曲線の結果より,MMSEのカットオフ値を18点と判断した.その場合の感度は0.867,特異度0.8,AUC 0.89となり,判別精度の高い結果であると考える.また先行研究のHDS-Rと類似した点数となった.
 今回,MMSEが18点以上で,非自立群となった症例が2例みられた.その要因として1例は90歳以上と高齢でリハビリに対する意欲が低下しており,積極的に実施できなかった.他の1例は骨折した側の下肢に変形性膝関節症を合併していた例であり,それらの要素が原因で自立歩行獲得に至らなかったと考える.逆にMMSEが18点未満でも自立歩行が可能となった症例が2例みられた.藤田らは,病識や歩行意欲があり,徘徊傾向の場合は歩行能力維持に有利に働くと報告している.2例中,1例は病識がなく,他の1例は病識がみられた.2例に共通して徘徊傾向はみられなかったが,歩行意欲に関して,リハビリを積極的に進めることが可能であったことから,自立歩行の獲得に有利に働いたと考えられた.
 本研究より,MMSEが自立歩行の可否に影響する因子であることが確認された.また,カットオフ値を設定したことで,自立歩行の可否を予測する一つの指標になると考えられる.転棟時に歩行予後を予測できれば,目標設定しやすく,プログラムの立案や退院先の検討,介護保険サービスの調整,退院先での生活を見据えた環境設定が早期より可能となると考える.
【理学療法研究としての意義】
 本研究では認知機能が大腿骨近位部骨折患者の歩行自立の可否に影響するかを調査し,MMSEが影響していることがわかった.また,転棟時にMMSEを用いることは,自立歩行の可否を予測する手段として有効だと考える.

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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