近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 14
会議情報

端座位一側下肢挙上位での側方への荷重量の変化が両側大殿筋上部線維・腰背筋群の筋電図積分値に与える影響
*津江 正樹赤松 圭介藤本 将志大沼 俊博渡邊 裕文鈴木 俊明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】脳血管障害片麻痺患者の入浴時の座位でのまたぎ動作にて、体幹筋や股関節周囲筋の筋緊張異常により一側下肢挙上が困難になる事がある。このような症例に対し、我々は、端座位にて側方体重移動を促し一側下肢挙上練習を実施している。この時体重移動側(以下荷重側)体幹筋には伸張位での活動を、下肢挙上側(以下挙上側)体幹筋には短縮位での活動を促すようにしている。さらに股関節周囲筋のなかでも荷重側殿筋群は支持面に適応する活動を、挙上側殿筋群は下肢を空間位に保持する活動を促しているがその臨床的指標となる筋電図学的検討の報告は少ない。我々は先行研究にて端座位一側下肢挙上位での側方への体重移動が両側内外腹斜筋単独部位・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値に与える影響について検討した。今回は同課題にて両側大殿筋上部線維・腰背筋群を対象筋とし検討したので報告する。 【方法】対象は健常男性7名、平均年齢29.0±7.2歳とした。被験者に端座位を保持させ、両上肢は胸の前で交差するよう指示した。そして両殿部下に2台の体重計をおき、両股関節内外旋0°・屈曲90°、膝関節屈曲90°となるよう座面を調節した。この時、殿裂を2台の体重計の中心に位置させ、各体重計の数値を合計し総殿部荷重量として測定した。次に一側下肢を挙上させるが、この時下肢の変化による影響を排除し骨盤の運動に着目にする為挙上側股・膝関節肢位は変化させず挙上側骨盤後傾角度(床への垂線と上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線の垂線との角)を10°に変化させ下肢を挙上させた。この肢位を開始肢位とし両側大殿筋上部線維・腰背筋群の筋電図を筋電計ニュ―ロパック(日本光電)にて5秒間、3回測定し平均値を求めた。電極位置について、大殿筋上部線維は上後腸骨棘の2横指下方と大転子外側端を結ぶ線上の筋腹に、腰背筋群は第4腰椎棘突起の側方3cmにそれぞれ電極間距離2cmにて配置した。次に荷重側へ荷重量を総殿部荷重量の60%、70%、80%、90%、95%へとランダムに変化させ、同様に各筋の筋電図を測定した。そして各課題では規定した挙上側骨盤後傾角度と股・膝関節角度を変化させないよう指示した。また頭部は床面に対して垂直位に、両側の肩峰を結ぶ線は水平位とした。さらに荷重側下腿が床面に対して垂直位を保つよう規定した。そして開始肢位での各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値(以下相対値)を求め、一元配置の分散分析とTukeyの多重比較を用いて検討した。 【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み、予め説明された本実験の概要と侵襲、公表の有無と形式について同意を得た被験者を対象とした。 【結果】荷重側大殿筋上部線維の相対値は荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた(p<0.05)。また荷重側腰背筋群の相対値は荷重量の増大に対して著明な変化を認めなかった。一方、挙上側大殿筋上部線維の相対値は荷重量の増大に伴い増加傾向を認めた。そして挙上側腰背筋群の相対値は荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた(p<0.05)。 【考察】本課題では開始肢位からの荷重量の増大に伴い、挙上側骨盤はより挙上位となる。この時荷重側では骨盤の後傾・荷重側回旋方向への働きが生じ、荷重側股関節は相対的に軽度内転・内旋位になる(規定より荷重側大腿は固定)と考えられる。これに対し荷重側大殿筋上部線維は股関節外転・外旋作用にてこの働きに対する制動に関与し有意な増加を示したと考える。また荷重側腰背筋群の相対値は荷重量の増大に対して変化を認めなかった。これは荷重側への体重移動に伴い荷重側体幹は伸張位となる為、その肢位保持に一定の活動にて関与したと考える。一方、挙上側大殿筋上部線維の相対値は荷重量の増大に伴い増加傾向を認めた。本課題では荷重側への体重移動に伴う挙上側骨盤の挙上により、挙上側下肢には下方(股関節内転・伸展)への働きが生じると考える。これに対し挙上側大殿筋上部線維は股関節外転作用にてこの働きに対する制動に関与し増加傾向を示したと考える。また挙上側腰背筋群は荷重側への体重移動に伴う挙上側骨盤の挙上作用として有意に増加したと考える。 【理学療法学研究としての意義】またぎ動作の改善を目指し脳血管障害片麻痺患者に治療を実施する時、特に股関節周囲筋の筋緊張異常から座位での体重移動を伴う一側下肢挙上にて骨盤から崩れを認める症例や、一側下肢挙上が困難な症例では、本研究から荷重側大殿筋上部線維による股関節外転・外旋作用と挙上側大殿筋上部線維による挙上側下肢を保持する作用を評価する必要性があると考える。また腰背筋群においては、荷重側腰背筋群による体重移動に伴う体幹の伸張位を保障する座位レベルの活動の維持と、挙上側腰背筋群による骨盤の挙上作用について評価する必要性が示唆された。

著者関連情報
© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
前の記事 次の記事
feedback
Top