近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 28
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腰痛患者の体幹回旋動作における筋活動特性
―腰痛患者では外腹斜筋の筋活動量が増加する―
*谷口 匡史建内 宏重森 奈津子市橋 則明
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キーワード: 体幹回旋動作, 腰痛, 筋活動
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抄録

【目的】 腰痛発生要因の約60%が体幹回旋と関連すると報告されているが、体幹回旋動作に関する検討は少なく、体幹回旋動作と腰痛の関連については不明な点が多い。これまで腰痛患者を対象とした体幹回旋動作に関する筋電図学的研究の多くは、等尺性収縮時の筋活動を検討したものであり、日常生活で生じるような体幹動作時の筋活動は明らかではない。本研究の目的は、体幹回旋動作における腰痛患者の筋活動特性について明らかにすることである。 【方法】  対象は、健常者15名(男性9名、女性6名、年齢:25.2±5.5歳;健常群)および腰痛患者15名(男性9名、女性6名、年齢:22.5±2.4歳;腰痛群)とした。腰痛群は、Visual Analogue Scale(以下VAS)で30mm以上の腰痛が過去に3カ月以上続いた者とし、測定課題の遂行には支障のない者とした。神経症状を伴う腰痛や内部疾患および精神疾患による腰痛は、質問紙にて除外した。腰痛群における最近1カ月間の疼痛は、VAS:平均35.6±23.3mm、腰痛群の健康関連QOL(Oswestry Disability Index)は平均15.1±10.5%であった。測定課題は、立位での体幹回旋動作とした。開始肢位は、両踵骨間距離を被験者の足長および足角10度とし、上肢は腹部の前で組んだ姿勢とした。対象者には、約2m前方で目線の高さに置かれたLEDランプを注視させ、LED点灯の合図にできるだけ速く回旋を開始し、1秒間で最大回旋に到達するよう指示した。数回の練習後、左右ランダムにそれぞれ5回ずつ実施した。 測定筋は、両側の脊柱起立筋腰部、多裂筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋、広背筋上部・下部線維、大殿筋上部線維の計16筋とした。解析には非利き手側への回旋動作を用い、動作時より得られた筋電図波形を整流平滑化し、3秒間の最大筋力発揮(MVC)時の筋活動量で正規化した%MVCを求めた。解析対象区間は、体幹回旋開始相(回旋動作開始の前100msecから開始後100msecまでの200msec)および体幹回旋全体相(回旋動作開始から終了まで)とし、それぞれの%MVCを算出した。統計は、SPSSを使用し、Mann-Whitney検定を用いて健常群・腰痛群の2群間の比較を行った。有意水準は5%とした。 【説明と同意】 本研究は、京都大学医学部医の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には予め実験の目的および内容を口頭ならびに書面にて説明し、実験参加への同意を得た。 【結果】  回旋開始相では、非回旋側外腹斜筋の筋活動量が腰痛群5.30±1.72%、健常群3.67±2.34%であり、腰痛群の筋活動量が有意に増加(p=0.04、効果量: 0.79)した。また、腰痛群では、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.08、効果量: 0.68)にあったが、その他の筋では両群間に有意な差は認められなかった。同様に回旋動作全体においても、腰痛群で非回旋側外腹斜筋の筋活動量が増加、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.09、効果量: 0.64)にあった。 【考察】 腰痛群では、非回旋側外腹斜筋の筋活動が有意に増加、非回旋側多裂筋の筋活動が減少する傾向にあった。Ngらは、多裂筋機能低下は脊柱不安定性と関連し、回旋ストレスが増大すると報告している。脊柱不安定性が増大した状態での回旋動作が軟部組織に対して荷負荷となり、腰痛を引き起こしている可能性がある。非回旋側外腹斜筋は、回旋主動作筋であることに加え、体幹を固定する作用を有している。腰痛群では、多裂筋の筋活動低下に伴う脊柱不安定性を外腹斜筋が脊柱安定化筋として代償した結果、筋活動量が増加したと考えられる。以上より、腰痛患者では非回旋側外腹斜筋の筋活動増加が腰痛と関連していることが示唆された。 【理学療法学研究としての意義】  本研究における体幹回旋課題は、これまでの先行研究よりも実際的な回旋動作での筋電図解析が実施でき、日常生活動作レベルの活動においても腰痛患者特有の筋活動特性が生じていることが明らかとなった。また、本研究は、腰痛患者の体幹回旋動作では、外腹斜筋や多裂筋に着目する必要性を示し、臨床における評価・治療の一助になると考えられた。

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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