抄録
【目的】近年、胸・腹部の患者が増加の一途にあり、手術数は年々増加しつつある。理学療法領域でも術後合併症からの回避、早期離床・早期退院を目的に、周術期における呼吸理学療法および運動療法の実施が強く求められている。当院においても、外科術後の患者の早期離床・早期退院を目的に、周術期理学療法を積極的に施行している。しかし、周術期理学療法に対する研究は少なく、歩行自立後に理学療法を終了している施設も多い。今回、開腹術前後の運動療法の計画を見直し、退院前日まで介入し、体重、6分間歩行テスト(6MD)、下肢筋力、10m歩行速度の変化などを観察するとともに、歩行自立後の理学療法介入の意義について検討する。
【方法】対象は、2010年11月から2011年5月に当院にて開腹術を施行され周術期リハビリテーションを実施した腹部癌患者59名(男性37名、女性22名)、平均年齢は、70.1±8.7歳であった。評価項目は、体重、呼吸機能(%VC及びFEV1.0%)、6MD、下肢筋力、10m歩行速度で、呼吸機能は術前のみ計測し、それ以外の項目についてはそれぞれ術前と退院前に測定した。下肢筋力は両膝伸展筋力をアニマ社製徒手筋力測定器μTasF-01と固定用ベルトを用いて、約3~5秒間の最大努力による膝伸展運動を行わせ、測定は左右の足に対して30秒以上の間隔をあけて2回ずつ行い、最大値(kg)を採用した。10m歩行速度は、速歩で2回測定し、最速値(秒)を採用。術前は患者教育にて理学療法の必要性を説明し、呼吸訓練、痛みの少ない動作方法、自主トレーニングの指導等を行い、術後は翌日より可能な範囲で全身状態に合わせて離床し、段階的に負荷を漸増した。また、状態が安定すれば出室し、自転車エルゴメーター・階段昇降訓練・床上動作訓練を実施し、退院前日まで積極的に理学療法介入を行った。
【説明と同意】対象者には事前に口頭および文書で十分に説明し、同意を得た。また、本研究は大阪鉄道病院倫理審査会により承認された研究の一環として行っている。<BR>
【結果】在院日数は20.3±8.2日、リハビリ室への出室日は5.6±2.4日で、術後肺合併症は認められなかった。術前後での各項の比較により、6MDは470.0±102.9mから438.1±105.2m、10m歩行速度は6.1±1.5秒から6.8±2.2秒と有意な低下を呈し(p<0.0001)、下肢筋力(体重比)は0.6±0.2kgから0.6±0.2kgであり、低下を認めなかった。また、術前後の6MD変化量と10m歩行速度変化量の間で強い相関を認めるが(p<0.0001)、それ以外の項目では相関を認めなかった。
【考察】先行研究では、開腹術患者の術後身体機能の低下において6MD、下肢筋力の有意な低下が報告されている。今回の結果では6MDは先行研究と同様に有意な低下を認め、10m歩行速度についても有意な低下を認めたが、下肢筋力は低下を認めなかった。これは、術前より患者教育にて理学療法介入の必要性を説明し術後翌日から可能な範囲で歩行訓練や筋力増強訓練を行い、自主トレーニングを積極的に行ってもらえた結果、ADLを可能な限り低下させないことが今回の結果に繋がったのではないかと考える。また、術後翌日から退院まで継続的に介入できたことが、下肢筋力維持の一要因と考える。しかし、理学療法の介入を行っていても、6MD、10m歩行速度については低下の傾向が認められた。他の報告では上腹部術後第14病日での6MD低下率が83.6%であったのに対し、当院では90.9%であったことから、今回の取り組みによりある程度の効果が得られていると考える。そして、6MD変化量と10m歩行速度の変化量に相関を認めたことから、10m歩行速度の変化量は6MDを計測できなかった症例に対する耐久性を含めた能力低下予測の一指標となり得るのではないかと考える。一方で、6MDや10m歩行速度の低下に影響を及ぼす因子が年齢や体重減少量、術前肺機能などとの比較からは見いだせなかった。臥床による筋力低下をコントロールできても耐久性低下を防げていないため、今後、耐久性やスピードに対する評価をしっかりと行うとともに治療プログラムを見直し、それぞれの関係性を追って傾向を見ていくことが今後の課題となる。
【理学療法研究としての意義】腹部癌患者に対する術前と退院時の身体機能の評価について、今後は術式・部位別の違いによる術後患者の状態を明らかにし、また、評価内容についてのそれぞれの関係性を調べ、術後理学療法プログラム内容の発展や社会復帰予測にも繋げる。