抄録
【目的】
ここ数年の文部科学省白書の中で、読書習慣を身につけることは国語力を向上させるといった文言が見られ、優れた文章を読むことがよい文章の作成につながることが示されている。しかし実習先で、「口頭では説明できるが文章で表現できない」という点を指摘される学生が少なからず見られる。そのため文章作成に関する学内指導に役立てることを目的に、入学直後の学生に幼少期からの読書経験についてアンケートを実施し、その結果と、課題レポートの文章力に着目した評価との関連性を検討した。
【方法】
本校理学療法学科の1年生40名(男性24名、女性16名、平均年齢24.0±7.3歳)を対象に、4月に自記式のアンケート調査を行った。アンケートの内容は、基本情報として年齢、性別、社会人経験の有無を記入してもらい、読書経験(教科書除く)について幼少期と中学・高校生期とに分けて質問した。選択肢は、1.全く読まなかった 2.ほとんど読まなかった 3.少し読んでいた 4.かなり読んでいた、とした。このうち、1、2と回答した者を読書経験が少ない群(幼少期:A群、中学・高校生期:C群)、3、4と回答した者を読書経験が多い群(幼少期:B群、中学・高校生期:D群)とした。また40名のうち社会人経験のある者をE群、ない者をF群、平均年齢以上をG群、平均年齢以下をH群と分類した。
課題レポートは6月に提出されたもので、それまでに学内で文章指導は行われていない。評価については、教員1名が「文章の体裁」、「文章の構成」、「文章表現」、「論旨」の4項目について100点からの減点方式で評価した。分析は、対応のないt検定を用いてA・B群、C・D群、E・F群、G・H群それぞれの間の点数を比較し、危険率5%をもって有意とした。
【説明と同意】
アンケート実施前に研究の趣旨を説明し、同意を得た。
【結果】
アンケートの回収率は100%であった。A・B群間比較では、有意にB群の方が高かった(p<0.05)。中学・高校生期では有意差が認められなかった。なお、E・F群、G・H群の群間比較でも、いずれも有意差が認められなかった。
A・B群におけるレポートの主な減点項目とその人数割合は、次の通りであった。体裁に関しては、口語を使用していた人数はA群71.4%,B群68.4%で共に多かったが、誤字・脱字は全体的に少なく、A群23.8%、B群10.5%であった。文章構成では、適度なボリュームのない者がA群47.6%、B群26.3%、文章表現では、不適切な表現がA群21.0%、B群5.2%、論旨に関しては、一貫性のない者がA群28.5%、B群5.2%と、いずれの項目においてもA群に減点者が多かった。
【考察】
レポートの採点内容で誤字・脱字における減点が少なかったのは、ほとんどの学生がパソコンを使用していたためと考える。しかし、これ以外の項目についてはパソコンに依存することができない。そのため特にA群では、レポートとして適度なボリュームがない、不適切な表現(例:使用する言葉が幼い)、論旨が不明確であるといった点が目立ち、これらの背景には幼少期からの読書経験の少なさがあるのではと推測した。
今回採点した課題レポートは、入学後に文章作成について指導をしていない状態での提出であり、学生の今までの文章能力を表しているものと考えた。中学・高校生期の読書経験による群分けを行うと、全体的に読書量そのものが減っていたが、点数に有意差は認められなかった。また年齢や社会人経験の有無で群間比較を行っても、有意差が認められなかった。これは、本研究は1年生を対象としており、ある程度の年齢で社会人経験があったとしても、形式に則ったレポートを書くことは初めてであったためと考えた。したがって今回の結果は、幼少期の読書経験がレポートの点数に影響を及ぼしたものと考えた。福田によると、3年生を対象とした文章能力に関する調査では、年齢と文章、論旨に相関があり、現役群と比較すると社会人群に文章能力に関する変数が有意に高値を示していた。本校でも今後、レポート提出の経験を踏むにつれ、年齢や経験による差が生じる可能性がある。また文章能力が臨床実習にも反映していると述べられているため、早期から様々な文献を読む経験を積ませると共に、文章作成に関する指導を行い、年齢や経験による差が生じることのないようにする必要がある。具体的な指導方法に関しては検討課題であるが、学内教育によって幼少期の読書経験の差を埋めることが可能であるか、今後、縦断調査をしていきたい。
【理学療法研究としての意義】
この研究を通じて、学生が実習で文章作成に悩むことのないよう、学内での教育方法を検討する一助としたい。また臨床においても、患者様や他の職種へ正確に物事を伝達できるような文章を書くことの重要性を見直す機会になると考える。