近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 48
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COPD患者の心拍変動指標の検討
*芳野 広和鈴木 裕二守川 恵助田平 一行大上 隆彦
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キーワード: COPD, 心拍変動, 自律神経
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抄録
【目的】  慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、抗コリン剤が有効なことなどから副交感神経と気道狭窄が密接な関係があると考えられている。COPD患者における心拍変動解析を用いた自律神経の評価では、安静時の副交感神経活動は亢進し、立位などの負荷に対する自律神経系の反応性は低下していると報告している。しかし、報告は少なく検討は十分でない。そこで、本研究はCOPD患者の自律神経機能の特徴を調査する事を目的とした。 【方法】  対象者は呼吸リハビリテーションの適応であると判断されたCOPD患者4名(COPD群:男性3名、女性1名、年齢73.2±4.5歳)と呼吸・循環器の既往のない健常高齢者4名(健常群:男性3名、女性1名、年齢71.8±2.7歳)とした。測定プロトコールは、斜面台(UA-501,オージー技研社)上で安静背臥位(安静時)を10分間とらせた後、斜面台の角度を70度に上昇し、10分間測定した。この間、APGハートレーター(SA-3000P ,東京医研社製)を用いて、左指にPPGプローブ装着し心拍変動を計測し、電子血圧計(H55w,テルモ社製)を用い、右上腕で血圧を測定した。評価項目は、心電図のRR間隔の標準偏差(以下SDNN)とパワースペクトル解析による低周波数成分(LF:0.04-0.15Hz)、高周波数成分(HF:0.15-0.40Hz)、LF/HFおよび血圧(収縮期、拡張期)とした。また、立位負荷時における各測定値は、安静時を基準とした比率を用いた。いずれの各姿勢において最後の5分間を解析に用いた。なお、測定に際し、朝食後、2時間以上の間隔をとる事、及び12時間前より薬物、カフェイン、喫煙を禁止した。室内温度は20~25℃とした。統計解析は、COPD群と健常群の年齢、血圧、心拍変動指標の比較はMann-WhitneyのU検定で分析した。p<0.05の場合を統計学的に有意とした。 【説明と同意】  本研究は市立枚方市民病院研究倫理委員会の承認を得て実施し、対象者には口頭および書面で十分な説明を行い、同意を得た。 【結果】  安静時の2群の比較(COPD群vs健常群)は、心拍変動指標においてSDNN(23.3±6.8ms vs 26.4±4.2ms)、HF(41.4±26.9 ms2 vs 64.3±12.4ms2)、LF/HF(1.50±0.46 vs 1.65±0.55)では有意差はなかったが、LF(62.5±53.4ms2 vs 102.5±29.5ms2)は健常群に比べて有意な低値を示した。血圧は収縮期(134.5±6.52mmHg vs 125.5±6.85mmHg)、拡張期(78.5 ±5.8mmHg vs 74.8±13.1mmHg)でともに有意差は認めなかった。 立位負荷時の比較は、HF(0.95±0.3 vs 0.85±0.3)では有意差は認めなかったが、LF(0.72±0.58 vs 2.15±0.42、p<0.01)、LF/HF(0.85±0.45 vs 2.08±0.43、p<0.01)は健常群に比べて有意に低値を示した。血圧は、収縮期(0.96±0.02 vs 1.00±0.02)、拡張期(1.07±0.05 vs 1.06±0.07)でともに有意差は認めなかった。 【考察】  COPD群の安静時のSDNN、HF、LF/HF、立位負荷時のHFは健常群と有意差はなかったが、安静時のLF、立位負荷時のLF/HFは有意に低値であった。COPD群において立位負荷時のLFが増加しない事についてはCOPD患者において交感神経反応の低下や、立位後の収縮期血圧が低下傾向にあった事から、圧受容器反射機能の感度の低下が考えられる。健常群とともに立位負荷時のHF成分の振幅の減少は静脈還流量の減少に対応した心臓副交感神経活動の抑制効果と考えられる。今回の結果から、COPD患者の自律神経機能において、副交感神経活動の亢進は確認できなかったが、立位負荷時の交感神経反応の低下、圧受容器の感度の低下の可能性が示唆された。 【理学療法研究としての意義】  COPD患者において自律神経反応の低下が示唆され、起立性低血圧などに留意しながら理学療法を行っていく必要があると考えられる。しかし、症例が少ないため今後も検討していく必要がある。また、これらの自律神経機能と呼吸困難感、運動耐容能などとの関連や呼吸リハビリテーション前後の変化についても検討していきたい。
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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