抄録
【目的】
2001年度からの5年間、国の施策として実施された高次脳機能障害支援モデル事業の結果、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・情緒行動障害などといった、いわゆる前頭葉機能の問題によって引き起こされる高次脳機能障害が注目されるようになった。そのような背景のもと、高次脳機能障害の診断や評価法について活発な議論がなされている。その一方、高次脳機能障害者の身体機能に対する評価法や治療効果に対する報告は少ない。
当院では、一般的な理学療法評価に加え、高次脳機能障害者の総合的な体力を評価するために体力テストを実施している。本発表では実施した体力テスト結果について、若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は当センターリハビリテーション科を受診し、高次脳機能障害と診断され、リハビリテーションを実施した患者の中で、ADL動作が自立し、20m以上走行可能な17歳~56歳(平均年齢51.2歳)の21名とした。
体力テストは文部科学省が実施している「新体力テスト」を対象者の年齢に合わせ、実施要項に準じて実施した。テスト項目は実施要項に準じ、握力・上体起こし・長座体前屈・反復横とび・20メートルシャトルランテスト・立ち幅跳びを実施した。
テスト結果は、実施要項に準じ項目別に得点をつけ、総合評価A~E判定・体力年齢の判定を行った。また、項目別結果および総合評価を平成21年度文部科学省統計によるテスト結果と比較した。
【説明と同意】
対象者には事前に、テストを行うこと・テスト結果を発表等に使用することもあることに同意していただき、主治医の許可の下、テスト実施中の安全に配慮し実施した。
【結果】
20名中1名は年齢相応の総合評価Cであったが、他の20名は総合評価D~F(D判定6例・E判定14例)でありテスト時の年齢よりも体力年齢が下回った。
項目別に見ると、握力・長座位体前屈・立ち幅跳びは年齢平均を上回る結果も見られたが、上体起こし、反復横とび、20mシャトルランテストでは、21例中19例で年齢平均に満たない結果となった。また実施中の拙劣な動作が目立った。
【考察】
今回体力テストを実施した21名中20名で、体力テスト結果に低下がみられた。また、項目別に見ても、低下している項目は同様であり、テスト中の動作様式も特徴的な場面が多く観察された。ADLを自立され、20mの走行が可能な程度の運動機能を有する患者は、自宅生活への復帰だけでなく、生活しておられた社会への復帰が目標となる。高次脳機能障害者の社会復帰においては、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・情緒行動障害などの障害が主な問題点となることが多いが、復学や復職、地域社会での活動を考慮すると、体力的低下は大きな問題となる。今回行ったテスト結果は、社会復帰へむけた、いわゆる「体力」を正確にあらわす結果ではないが、同年齢と比較しての低下が著明にみられたことはライフステージに応じた支援を行っていく中で、継続したフォローが必要な項目と考える。
今回実施した体力テストは、テストの説明や指示も実施要項に従い、同一条件で行ったため、結果には、運動機能以外にも、注意の転動性やテストに対する意欲なども影響を与えていると考えられた。今後は、高次脳機能障害者の運動機能の特徴や体力的な問題点を明らかにしていき、復職・復学などの社会復帰に必要な社会的・総合的な運動機能・全身持久力評価を検討していきたい。
【理学療法研究としての意義】
一般的な理学療法評価バッテリーでは評価しにくいADL自立レベルの高次脳機能障害者の体力評価を行うことにより、プログラム立案・実施のデータとして用いる。また、高次脳機能障害者の運動機能特性考察や社会的・総合的な運動機能評価検討の基礎データとしての発展性が考えられる。