近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 6
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脳卒中片麻痺患者の最大歩行速度に与える因子の検討
-膝伸展筋力・最大一歩幅の左右差に着目して-
*新井 隆生西濱 大輔大垣 昌之
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抄録
【目的】 一般的に脳卒中片麻痺を呈した患者(以下,片麻痺患者)の歩行の特徴は,歩行速度の低下,ストライド長の低下,麻痺側から非麻痺側へのステップ長が短くなるなどが挙げられ,歩行の左右差が歩行効率の低下や,歩行速度に影響を与える可能性が考えられる.最大歩行速度に関連する因子として,麻痺側膝伸展筋力が関連するとの報告が散見されるが,運動麻痺の改善は認めないも,歩行能力が改善することも少なくない.運動麻痺の機能だけでなく,歩行能力に関連のある動作能力への着目も必要であり,高齢者の移動能力を定量化するテストとして最大一歩幅がある.最大一歩幅は歩行と同様,前方への推進力を必要とする動作の一つであると考えられるが,運動麻痺の機能,最大一歩幅の左右差が歩行速度に影響するかは明確となっていない.そこで,本研究の目的は,片麻痺患者の膝伸展筋力及び最大一歩幅の左右差(麻痺側/非麻痺側)が最大歩行速度(Maximum Waking Speed;以下,MWS)に及ぼす影響を検討した. 【方法】 対象は片麻痺患者12名(平均年齢67.6±9.4歳,男性7名,女性5名)であり,発症後経過期間は127.5±56.9日であった.選択基準は3分間以上見守りもしくは自立歩行可能なものとし,整形外科疾患を有するもの,認知症,高次脳機能障害により研究の理解および同意が困難であったものは除外した.MWSは助走路3m歩行後の距離10mをできるだけ速く歩いた時の所要時間をストップウォッチを用いて0.1秒単位で測定し,1回の試行の値をMWS(秒/分)とした.等尺性膝伸展筋力の測定はHand-Held Dynamometer(OG技研ISOFORCE GT-310)に固定用ベルトを用い,端座位下腿下垂位にて約5秒間の最大随意収縮による膝関節伸展運動を行わせた.各脚2回測定し,各脚の平均値を非麻痺側肢の値で除し,左右差の値を等尺性膝伸展筋力比(kgf)とした.最大一歩幅の測定は靴を履いた状態で立位をとり,平行に引かれた線に踵部を合わせ,前方へ努力性にステップを行わせた.数回練習した後,各脚1回測定し,非麻痺側下肢支持での麻痺側下肢最大一歩幅の値で除し,左右差の値を最大一歩幅比(cm)とした. MWSと等尺性膝伸展筋力比及び最大一歩幅比の各変数間の関連性の影響を除外し,MWSと各変数との偏相関関係を検討すること,MWSに影響を及ぼす因子を抽出することを目的に,MWSを目的変数,等尺性膝伸展筋力比及び最大一歩幅比を説明変数としたステップワイズ重回帰分析を行った.解析にはstatcelを使用し有意水準5%とした. 【説明と同意】 対象者に研究の主旨を説明し,参加の同意を得た上で行った.本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した. 【結果】 MWSは平均14.8±12.8秒/分,等尺性膝伸展筋力比は平均0.92±0.15kgf,最大一歩幅比は平均0.65±0.27cmであり,ステップワイズ重回帰分析ではMWSと等尺性膝伸展筋力比(-0.09,n.s.)との間には偏相関は認めなかったが,最大一歩幅比(-0.63,p<0.05)では有意な偏相関を認めた.MWSに影響を及ぼす因子としては最大一歩幅比が抽出され,寄与率は54%であり,得られた回帰式はy=-0.7A+72.6[y:MWS,A:最大一歩幅比]であった. 【考察】 膝伸展筋力はMWSに関連するとの報告がなされている.しかし,今回は膝伸展筋力の左右差とMWSとの関連は認めなかった.これは,脳血管障害の一次障害である運動麻痺が随意的な筋出力の発揮の左右差に影響したものと考えられる.最大一歩幅は支持脚の動作時に発揮される筋出力の影響を受け,一歩幅の左右差を生じると考えられる.また,片麻痺患者の歩行速度は麻痺側の支持性の影響を受けるとの報告もあり,最大一歩幅の左右差が歩行速度に影響を与える可能性があると考えられた.歩行は2本足を交互に前方に出すことと,重心を前方に移すことで全身を移動させることから,最大一歩幅の前方に重心を移す動作が左右差に影響を与える可能性が考えられた.最大一歩幅の左右差への着目や経時的変化を確認することが治療的介入に反映できるかと考えられた.今回は,最大一歩幅の左右差が生じる原因を追及できていないため,今後の研究課題としたい. 【理学療法研究としての意義】 片麻痺患者の最大一歩幅の左右差が歩行速度に影響を与える可能性があり,歩行速度の向上を目的とする場合,最大一歩幅の左右差への着目も必要であると考えられた.
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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