抄録
【目的】著者らは、健常者を対象に運動イメージが運動イメージ側の脊髄神経機能の興奮性に与える影響をF波で検討している。先行研究では、ピンチメータを用いて、左側母指と示指による対立運動でピンチメータのセンサーを1分間持続して把持できる最大のピンチ力を測定し、その50%のピンチ力で対立運動を練習させた。次に、ピンチメータのセンサーを軽く把持した状態と、センサーを把持しないで50%収縮をイメージさせた状態で左母指球筋よりF波を測定した。その結果、ピンチメータのセンサーを軽く把持した状態、センサーを把持しない状態でも運動イメージによるF波出現頻度、振幅F/M比は安静時と比較して増加したが、その傾向はセンサー把持しながらの運動イメージで増加していた。このように、運動イメージの方法は実際の運動に近い方法で実施することが大切であることがわかった。本研究では、パーキンソン病患者を対象として同様の研究をおこなうことで、等尺性収縮を用いた運動イメージが脊髄神経機能の興奮性に与える影響をF波にて検討した。
【方法】本研究の対象は、パーキンソン病患者10名、平均年齢63.9±11.0歳の非利き手(左側)を対象とした。被験者を背臥位とし、左側正中神経刺激のF波を左母指球筋より導出した(安静試行)。次に、ピンチメータのセンサーを軽く把持した状態(センサー把持試行)で、非利き手側正中神経刺激によるF波を非利き手の母指球筋より導出した。このとき、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼でピンチメータのピンチ力表示部分を注視させた。次に、ピンチメータを用いて、左側母指と示指による対立運動でピンチメータのセンサーを1分間持続して把持できる最大のピンチ力を測定し、その50%のピンチ力で対立運動を練習させた。このとき、50%のピンチ力の調整は、被験者自身がピンチ力表示部分に表示される実測値を見ながら対立運動を行う、視覚によるフィードバックを用いた。その後、センサーは軽く把持したまま50%収縮をイメージさせた状態(センサー把持運動イメージ試行)で非利き手の母指球筋よりF波を測定した。最後に、センサー把持しないで運動イメージを実施した状態(センサー把持なし運動イメージ試行)で非利き手の母指球筋より同様にF波を測定した。F波測定項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。統計学的検討は、統計解析ソフトSPSS ver 16.0を用いて、Kolmogorov-Smirnov検定、Shapiro-Wilk検定を用いて正規性の検定を行った。その結果、正規性を認めなかったために、ノンパラメトリックの反復測定(対応のある)分散分析であるフリードマン検定で検討した。しかし、群間に有意な差を認めなかったために、安静時試行と各条件下の比較をWilcoxonの符号付順位検定をおこなった。なお、本研究は平成22年度理学療法にかかわる研究助成(日本理学療法士協会)により行われた。
【説明と同意】本研究ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則および追加原則を鑑み、予め説明した本研究の概要と侵襲、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意を得た患者を対象に実施した。
【結果】F波出現頻度は、安静試行と比較してセンサー把持試行、センサー把持運動イメージ試行、センサー把持なし運動イメージ試行で増加傾向であった。センサー把持運動イメージ試行で安静試行と比較して増加した(p<0.01, Wilcoxon符号付順位検定)。振幅F/M比は、安静試行と比較してセンサー把持試行、センサー把持運動イメージ試行、センサー把持なし運動イメージ試行で増加傾向であった。センサー把持運動イメージ試行で安静試行と比較して増加した(p<0.01, Wilcoxon符号付順位検定)。立ち上がり潜時は各試行での差異は認めなかった。
【考察】パーキンソン病患者における運動イメージの効果に関する先行研究では様々な報告がある。Heremansらは、パーキンソン病患者14名と健常者に運動イメージを実施し、多くの患者で運動イメージの効果を認めたと報告している。しかし、Yaguezらは12名のパーキンソン病患者に10分間の運動イメージを実施したが、明らかな運動機能の改善は認めなかったと報告している。本研究において、健常者を対象とした先行研究の結果同様に、ピンチメータのセンサーを把持させての運動イメージで安静時と比較して脊髄神経機能の興奮性に指標であるF波出現頻度、振幅F/M比の有意な増加を認めた。母指と示指で軽く把持した状態で保持すると、運動イメージによる影響だけでなく、保持することによる固有受容器からの影響による相乗効果によって脊髄神経機能の興奮性が増大することが考えられた。
【理学療法研究としての意義】パーキンソン病患者へ運動イメージを理学療法として用いる場合には、獲得させたい運動にできるだけ近い肢位において運動イメージを実施させることが重要であることがわかった。