近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 65
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脳卒中後にしびれが遺残したが、活動性向上が図れた一症例
*宮重 有貴神藤 祥子高司 芳久
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キーワード: 活動性, しびれ, 脳卒中
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抄録
【目的】 しびれ感は脳卒中に多く自覚される神経症状の一つであり、約60%がしびれを自覚している。今回、屋内杖歩行自立であるがしびれ(異常感覚)の訴えがあり、活動性低下を示した脳梗塞患者を担当する機会を得た。一般的に、しびれは主観的なものであり、身体的・精神的・環境的な要因によって変化しやすい。さらに睡眠障害や抑うつなども起こり活動性低下を生じやすいと考えられる。しかし、しびれにより必ずしも活動性低下が生じるわけではなく、スムーズな在宅生活への移行を図るためにはしびれが遺残した場合でも活動性の向上が必要な場合もある。そこで、今回はしびれに配慮しつつ活動性の向上を図ったのでここに報告する。 【方法】 症例は右延髄梗塞により左片麻痺を呈した70歳代の男性。平成22年12月初旬に発症、脳梗塞と診断される。発症3週間後に当院へ転院。リハビリ開始より3ヶ月経過し、日常生活動作は起居・移乗・屋内T字杖歩行自立となった。機能面を以下に示す。高次脳機能障害・脳神経障害:なし。Brunnstrom Stage:下肢_VI_、上肢・手指_V_。筋力:左上下肢軽度低下(4level)。Mini Mental State Examination(MMSE):26点。表在感覚:左上下肢・中等度鈍麻(健側比5/10)。深部感覚:正常。 本人の同意を得た上で、身体活動量計(Panasonic社製、品番EW-NK30)を使用し、歩数と活動量を測定した。起床時より就寝時まで麻痺側胸部前面に装着させ、1週間ごとに解析を行った。計測開始時を第1週目とし、第1週の合計歩数は5631歩(1日平均804歩)であった。測定期間は計5週間とした。第2、3、4、5週開始時に前週の歩数と活動量について、グラフと口頭によるフィードバックを行った。フィードバックの方法は、事前にCommunication Style Inventory(以下CSI)を実施し、症例がアナライザー(行動の前に多くの情報を集め分析、計画を立て物事を客観的に捉えるのが得意)であることに配慮して行った。実施記録表(チェック用紙)も作成し、活動の実施状況もフィードバックした。第1、3、5週には、精神的・環境的な要因の評価としてGeriatric Depression Scale(以下GDS)、Falls Efficacy Scale(以下FES)、一般的に疼痛の評価であるがしびれの評価の代用としてVisual Analogue Scale(以下VAS)、McGill Pain Questionnaire(以下MPQ)を実施した。第1週のGDSは15点中8点、FESは40点中20点、VASは81、MPQは41(sensory15、affective8、evaluative8、miscellaneous10)であった。 【説明と同意】 しびれが遺残した場合でもスムーズな在宅復帰の可能性を提示した症例として本人・家族の同意を得た上で報告する。 【結果】 第2、3、4、5週と歩数の増加がみられた。第2週6957歩(1日平均993歩)、第3週10949歩(1日平均1564歩)、第4週13517歩(1日平均1931歩)、第5週15749歩(1日平均2249歩)であった。GDS、FESにおいてもわずかな改善がみられた。GDSは第3週目15点中8点、第5週目15点中6点、FESは第3週目21点、第5週目28点であった。しかし、しびれの程度としてはVAS、MPQともに改善はみられなかった。VASは第3週目77、第5週目84、MPQは第3週目38(sensory19、affective8、evaluative3、miscellaneous8)、第5週目64(sensory28、affective11、evaluative9、miscellaneous16)であった。しびれの訴えは変わりがなかったが、第4週目、5週目においては家人との外出・外食、退院前の一時帰宅・一泊帰宅も行えるようになった。 【考察】 今回、活動量計を用いて歩数・活動量を測定し、適切なフィードバック・対応を行い活動量の増加が図れた。しかし、活動量の増加とともに精神的な要因の改善は認められたが、しびれの改善は認められなかった。しびれと精神面との相関は本症例においてはなかったことが示唆された。しかし、活動量の増加により退院前の一時帰宅・一泊帰宅が困難感なく行えたと考える。 【理学療法研究としての意義】 理学療法によって異常感覚そのものを解消することは難しいと考えられるため、強い異常感覚が遺残した人に対する理学療法での望ましい対応については心理学的知見などを踏まえつつ個別に対応していく必要がある。今回は、異常感覚が遺残した場合においても活動性の向上が可能であり、日常生活に悪影響を及ぼさず、スムーズな在宅復帰が可能な場合があると実証できたと考える。
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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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