抄録
【目的】
Perry Jらよると足関節の背屈は歩行周期の48%で最大角度の10°に達するとされている。足部・足関節の外傷後数週間の固定により足根管周囲の軟部組織の癒着や滑走性・伸張性の低下が生じ、足関節の背屈制限や足根管症候群が生じていることがある。その中でも長母指屈筋は距骨の後方を通過しており、距骨の後方への滑りを制動することから足関節背屈の可動域制限の因子となることがある。
今回、足関節とは異なる関節である母趾MTP関節伸展での長母指屈筋の遠位方向への滑走距離(以下、遠位滑走距離)を計測する事でギプス固定中にどの程度長母趾屈筋へのストレッチや癒着予防といった関節可動域制限に対する予防を実施出来るかを検討したため報告する。
【対象】
足関節・足部に外傷の既往のない健常成人男性3名6肢とした。平均年齢は27±2.6歳であった。
【方法】
超音波画像診断装置(日立メディコ社製 HI VISION AVIUS)にて長母指屈筋を抽出し、画像上の同一部位を追跡し、その座標が分かることで移動距離を計測する方法(2D Tissue Tracking法)にて滑走距離を計測した。計測における術者は1名とし脛骨内果頂点の後方にプローブの下端がくるようにし、長母指屈筋に対し長軸にプローブを当て、遠位滑走距離を計測し記録した。計測肢位は対象となる下肢をCPM(酒井医療 KINETEC Prima+)にて膝関節90°屈曲位とし計測した。今回の運動は他動運動として歩行時に必要となる足関節の背屈角度である0°~10°と、ギプス固定中から動かせる母趾MTP関節の伸展として伸展の参考可動域である0°~60°における滑走距離を比較した。今回測定で動かす足関節と母趾MTP関節は関節運動軸から対象となる長母指屈筋までの距離が異なってくる。そのため、各関節の角度変化が同じ場合でも滑走距離は異なってくるが考えられる。今回の測定は3回行い、平均値をデータとして用いた。
【結果】
母趾MTP関節0°~60°伸展での長母指屈筋の遠位滑走距離の平均値は3.15mm、足関節0°~10°背屈では1.74mmであった。
【考察】
前述の通り歩行で必要となる足関節の背屈角度は10°であり、0°~10°では平均1.74mmの遠位滑走距離であった。足部・足関節の外傷時、ギプス固定中に実施出来る母趾MTP関節の運動として挙げた0°~60°伸展させることは平均3.15mmであり、足関節の背屈0~10°よりも母趾MTP関節の伸展で滑走距離が長い傾向がみられた。
大工谷によると足関節背屈可動域制限の運動軸偏位の1つに屈筋支帯内側部または脛骨内果後方部(長母指屈筋腱・長趾屈筋腱)の短縮を挙げている。本研究より足関節背屈可動域訓練のできない外傷後の固定期間から実施できる母趾の伸展訓練は歩行に必要となる足関節の背屈角度より大きく長母指屈筋を滑走できる傾向があり、ギプス固定時期から進行する癒着や短縮などといった可動域制限に対する予防の方法として有効な方法であったと考える。
【まとめ】
今回超音波画像診断装置を用い母趾の伸展における長母指屈筋の滑走が足関節の背屈にどの程度影響があるかを検討した。結果、母趾の0°~60°伸展が足関節の0~10°背屈よりも滑走距離が長い傾向がみられた。
今後は足関節背屈位での母趾の伸展を計測し、歩行で必要となる滑走距離の計測や、収縮を用いた近位方向への滑走距離を計測することで、より臨床での治療についての効果を検討していきたい。