抄録
近年、量子力学に特徴的な重ね合わせ状態|Ψ>=α|0>+β|1>を大規模並列演算へと応用する量子コンピュータが注目されている。これまで様々な系でプロトタイプが提案されているが、実際に現在のコンピュータが苦手とする素因数分解問題を解くことができているのは核磁気共鳴の系だけである。核磁気共鳴による量子情報処理には量子ビット分子が必要であり、量子ビット分子は分子内の共鳴核種が互いにスピン-スピン結合し、かつ十分な化学シフト値差、緩和時間の逆数よりも大きなスピン-スピン結合定数、J値を持つことが条件である。我々はこれらの条件を満たす量子ビット分子を31P核によって多量子化を試み、今回、3,4-dihydro-1,3,4-triphosphacyclopenta[a]indeneによる3量子ビットを検討したので報告する。